今回ご紹介するのはベスブ石です。
ベスブ石(Vesuvianite)【珪酸塩・正方】←9cm→
長野県川上村甲武信鉱山
甲武信鉱山について『日本の鉱床総覧』を見てみましょう。
「鉱体に関する事項」に、スカルン鉱物として柘榴石、ヴェスブ石、灰鉄輝石、透輝石、緑簾石、バラ輝石が見られると記されています。
「発見時代、沿革」に、「300余年前、武田信玄の開坑と伝えられる」「昭和8年~14年、金峰鉱山と称して稼行Au5g/t、Ag5g/tを10t/日を出鉱した」「昭和24年に別子鉱業株式会社(現在の住友金属鉱山(株))に帰す」とあります。
次にベスブ石について、関係書籍を繙きましょう。
先ずは、かの和田維四郎の大著『日本鑛物誌』です。
「豊後大野郡木浦に於て此鑛を産す。其結晶は明暸にして綠黑色なるを常とす。結晶中の大なるものは徑一五「ミリ」長さ之に三倍するものあるも多くは之よりも小なり、故菊地氏(地質一卷二號)に依れは花崗岩と石灰岩の接觸部に生したる接觸鑛物なり~」とあります。
次は同じく和田氏の『本邦鑛物標本』です。
「Ve」を「ウェ」と読むのは、ドイツ人教師に習ったからでしょうか?ただ…上の『日本鑛物誌』においては「ヴェ」となっているあたりが開国直後の明治期の特徴なのでしょうか?
次は『大鑛物學』です。
「始めて伊太利國ベスーブ火山より發見せるが故に此の名あり。正方晶系完面像晶族に屬しa:c=1:o.5375多くは接觸鑛物として柘榴石・硅灰石等と共に粒状石灰岩中に産し、又結晶片岩の裂罅に發見せらる。~」「一般に結晶面に富む鑛物にして、ハウヰ氏は九十個の面を數へたり。ベスーブ石は接觸變質石灰岩及び始原代石灰岩に最も普通なり。或は透輝石及び斜綠泥石と共に岩石の表面に着生し、又は岩石の中に埋沒し、ベスーブ外輪山より抛出せる石灰岩塊中に産し、又ウラル地方の磁鐵鑛床に出で、北部伊太利にては蛇紋岩中に存在し、結晶片岩の空隙に産する事亦稀ならず。例へばアルプス山脈・スカンヂナビヤ・ウラル山地・東部西比利亞等に於けるが如し、又火山灰中にも曾て之を出だせり。我が國にては豐後木浦の花崗岩及び石灰岩の接觸帶より結晶の判然たる綠黑色のものを出だし、直徑十五ミリ、長さ四十五ミリに達するものあり。~」とあります。
次は『本邦鑛物圖誌』です。
「ベスブ石は柘榴石、珪灰石、綠簾石、透輝石、磁鐵鑛等に伴ひ接觸變質を受けた石灰岩中に産する代標的の鑛物である。結晶は正方晶系に屬し短柱状、錐状をなして産する。」とあります。
さらに、さまざまな結晶形態が載せられています。
結晶形態といえば『日本産鉱物の結晶形態』を見ない訳にはいきません。
最後は『信濃鑛物誌』です。
「北安曇郡佛崎の石灰岩の接觸部に産す、黑色方柱状にして端面にはpc面あるが如し、近江國五別所産のものに似たり。」とあります。
今回見た書籍は以下です。
『信濃鑛物誌』(八木貞助、古今書院、1923)
『日本産鉱物の結晶形態』(高田雅介、「ペグマタイト」誌100号記念出版、2010)
『大鑛物學 下卷』(佐藤傳藏、六盟館、1918)
『日本の鉱床総覧 上巻』(日本鉱業協会、同、1965)
『本邦鑛物圖誌 3』(伊藤貞市、大地書院、1940)
『本邦鑛物標本』(和田維四郎、東京大学出版会、2001)
『日本鑛物誌』(和田維四郎、東京大学出版会、2001)