真帆が30のおばさんになったという事実がKENちゃんには信じられなかった。
KENちゃんはふと自分のボロイアパートを見回した。
多分自分は一生ここを出れない。
KENちゃんにははっきりと分かった。
中村さんは20年近く同じアパートに住んでいた。
世間の賞賛も結婚も
全てかなぐり捨てて
中村さんは仙人のように暮らしていた。
最近の中村さんは精神世界に入っていっていた。
バブルに置いていかれた人間は
何か違う物を見つけないとやっていけないのだろう。
KENちゃんは中村さんのようにはなれなかった。
中村さんの音楽もだんだん時代遅れになってきて
KENちゃんはひしひしと自分がインディー落ちするのを感じていた。
多分あのアメリカツアーがキャリアのピークなのだろう。
最近の中村さんは天然酵母のパン作りに凝っていって
インドに行きたいとまでぼやくようになった。
KENちゃんは社会に無視される孤独さに叫びだしそうになった。
25歳の時、真帆を捨てるべきではなかった。
真帆なら自分が貧乏でも
ずっと少女漫画を描いて食べさせてくれる
優しい子だったのに。