KENちゃんは韓国ツアーの間もナンシーの事ばかり思い出していた。
周りにタブー感を与える付き合いをしている事がかえって変にKENちゃんを燃え上がらせていた。
バンドメンバーと焼肉を食べながら「ナンシーにもこれを食べさせてあげたい。」と思った。
観光をするたびに「ナンシーにもこれを見せてあげたい。」と思った。
一所懸命KENちゃんのアパートを綺麗に掃除してくれるナンシーの姿を思い出した。
ツアー嫌だ。
ナンシーとずっと一緒にいたい。
中村さんがツアーバスの中で「ナンシーはどうよ?」と聞いてきた。
「凄く幸せにやっています。」
KENちゃんが即答した。
「このままフィリピーナと落ち着いて、カタギの仕事に就くからバンド辞めますというのはナシだぞ。」
中村さんが真剣な顔をして言った。
このバンドの月給でもう一度妻と、子供もう一人と、海外ツアーというのは無理なのは分かっていた。
それまで考えなかったカタギの人生についてふっとビジョンが湧いた。
「基本的に青木君には独身でいて欲しい。まさかナンシーとこうなるとは思わなかった。君には歌い続けて欲しい。」
中村さんが続けた。
「バンドを辞めるつもりはありません。でも結婚はしちゃうかもしれませ・・ん・・。」
「あ~、フィリピーナに子無し結婚なんか無理。そのうちハメられて、子供の為にちゃんとした仕事就いて・・とか言われて、結局君はカタギの男になるんだよ。駄目!絶対駄目っ!青木君がボーカルになってから海外評価が出たから、君を失いたくないっ。歌うまいから結婚しないで。」
「お・・俺の幸せは???」
「女のアイドルじゃないんだから、ヘンな事言ってないで諦めてよ。もう、一回結婚して別れて子供もいるんだろ?経験としては充分だ。」
「フィリピーナパブで俺を励ましていたのに・・・。」
「あれは冗談だよー。今では誰よりも青木君がフィリピーナにハマってるよ。竹内さんは既婚だからさっぱりしてるもん。金払いはいいけどね。君みたいに魂を売り渡していないよー。」
「中村さんはフィリピーナと結婚したくないんですか?」
「もっとバンド有名になって金持ちになってからだったらいいよ。でも今そんな事したら夢が頓挫する。」