アメリカツアーの前日は日が昇る前に起きた。
マネージャーが経費を浮かす為に直行便を使わなかったので、アメリカに着くまでに長時間かかった。
考えて見れば、KENちゃんは31歳まで海外に出たことはなかった。
旅行も真帆と温泉に行ったりした位だった。
乱人君が、TAKAがバンドを解散して事務所を辞めた事や、個人事務所を設立して2代目ボーカル真琴をピンで歌わせてプロデューサーとしてぼろ儲けしている事を教えてくれた。
あの時KENちゃんに辞めてもらわないと今の俺はなかった・・・というTAKAの言い草を思い出してKENちゃんは苦笑した。
美穂はやはり元ソープ嬢で、枕芸で社長の愛人をやって、社長にプロモーションして貰って大成したという噂は本当らしい。
そう考えるとソープ嬢の美穂に本気で嫉妬して
刃物をふりまわして
事件を起こして
恥じるように首を吊って死んだ俺の妻の人生は何だったんだろう・・・?
飛行機が離陸した時に
碧い空に早朝の太陽が眩しく輝いていた。
遠い昔
TAKAのバンドにオーディションに出かけた事を思い出した。
あの時はTAKAがこうなるとは思わなかったし
自分もこうなるとは思わなかった。
「KENちゃん、あの時首になってよかったんだよ。どうせTAKAはもう一生バンドはやらないんだから。」
乱人君の言葉をKENちゃんは思い出した。
機内で酒を飲みながらKENちゃんは昔赤いポルシェの中でディープキスをしていた真帆とTAKAの夫婦を思い出した。
真帆だって高校生の時TAKAがこうなるとは思わなかったろうし
真帆も真帆自身が今こうなっているとは思わなかっただろう。
いまだにコンビニで不気味な美しさを発していたTAKAをKENちゃんは思い出した。
TAKAと絡むと人生が変わるらしい・・・。
2週間後にKENちゃんのバンドのクラブツアーバスが乾燥した平原の道の真ん中で
痩せた黒い犬を轢いた。
暑い夏の日だった。
KENちゃんが心配そうに窓を開けて犬を見た。
誰もそんなのは気にかけずに
寝ている奴がほとんどだった。
そのうち犬が後方に小さく消えて
バスは何もなかったように走っていた。
あのまま砂漠の真ん中で餓死するのと
車で轢かれるのと
どっちも同じような気がした。
それから急に真帆が19歳の時お財布を開いて買ってくれた
温泉マーク布巾と踏み竹を思い出した。
あの時真帆は仕事も金もなかったが
本当にいい子だった。
本当に愛していた。