セキュリティ・クリアランス制度は問題があり過ぎる。 | じろう丸の徒然日記

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何とも酷い法律が、5月10日参院本会議で可決、成立してしまった。
前回の記事でも取り上げた「重要経済安保情報保護法」のことである。

 
この法案の問題点については、前回の記事で書いているので、参照してください。



この法律は、経済安全保障上の機密情報を扱う事業者ら身辺調査するセキュリティー・クリアランス(適性評価)制度である。
 
前回の記事でも書いたが、機密情報の範囲が曖昧なために、政府によってどんどん拡大解釈され、政府が恣意的に指定したり、個人のプライバシー権が侵害される恐れがある。
さらに、公安警察の権限もこれまでより広がり、冤罪事件が次々と起きかねない。

 
それなのに、『東京新聞』4月18日5月11日の報道によれば、身辺調査の具体的な内容現段階では不明で、法が成立した後政府が決めるのだとか。
その4月18日の報道記事には、情報法制に詳しい右崎正博独協大名誉教授(憲法学)の次の談話が紹介されている。


 (以下、引用)
 運用基準を閣議決定すれば何でもできるんだというやり方は議会制民主主義の軽視そのものだ。岸田政権は次期戦闘機の日本から第三国への輸出方針を閣議決定したが、憲法解釈の変更を閣議決定して集団的自衛権の行使を容認した安倍政権と変わらない。
 
 特定秘密とも共通するが「漏えいが安全保障に支障を及ぼす恐れがある」ということをどういう基準で判断するのか曖昧だ。運用基準や政令で対象を具体化するという重要経済安保情報の漏えいには罰則が科される。政令による処罰を禁じる憲法73条6号に抵触する可能性があるほか、処罰の対象行為をあらかじめ法律で定めなければならないという憲法31条が求める「罪刑法定主義」にも反する。
 
 適性評価は本人の同意が前提というものの、家族や同居人の国籍なども調べられる。評価の結果や調査を拒否した事実も会社に通知され、憲法19条の思想信条の自由を侵害する可能性がある。憲法13条の幸福追求権に含まれるプライバシー権に対する重大な脅威になることは疑いない。
(引用、終わり)
 
新法成立後5月11日の記事では、上智大中野晃一教授(政治学)この法律課題や背景を説明している。
(以下、引用)
 新法は、安倍政権時代に制定された特定秘密保護法や国家安全保障会議(日本版NSC)の創設、集団的自衛権の行使容認などに続き、同盟を結ぶ米国と安全保障政策を一体化させる一連の流れのなかにあると言える。
 
 米国は、軍事のほか経済や科学技術の分野でも同盟国と協調する「統合抑止」で、台頭する中国を封じ込める戦略だ。そこに日本も組み込まれるなかで、本当に自国の経済や安全保障のためになるのか。人権や自由を侵害しかねない身辺調査の運用にどう歯止めをかけるのか。こうした点を深く議論すべきだった。
(引用、終わり)
 
最近発売された『世界 SEKAI』2024年6月号でも、京都大学高山佳奈子教授(刑法理論、経済刑法、国際刑法)セキュリティ・クリアランス制度の問題点を述べている。
それによると、機密情報を扱う事業者政府が身辺調査するセキュリティ・クリアランス制度は必要であり、それが国際標準だ、という意見が多いが、それは間違っている。
セキュリティ・クリアランス制度は事実上、人権を制約するだけのものであり、人権侵害の予防や救済の制度が整って初めて国際標準と呼べるのである。

 
「重要経済安保情報保護法」がどうして人権の制約にしかならないのかというと、高山教授によれば、すでに従来の制度で、重要情報の保護が網羅的に図られていたからである。
例えば――。

 
安全保障の文脈では、1949年以来、「外国為替及び外国貿易法」(当初は「外国為替及び外国貿易管理法」の規制が存在している。
 
サイバー攻撃については、1999年制定の「不正アクセス行為の禁止等に関する法律」や、コンピューター・ウイルス等関連犯罪の処罰(刑法)がある。
 
国家機密については、一般的に国家公務員法の守秘義務違反の罪の処罰で保護されてきた。さらにそのうちの営業秘密の要件(非公知性、有用性、秘密管理性)をも満たす情報は、不正競争防止法の営業秘密侵害罪の重い罰則をもって保護されていた。
 
テロにかかわる行為は、「公衆等脅迫目的の犯罪行為等のための資金等の提供等の処罰に関する法律」(テロ資金提供処罰法)で、極めて広く処罰対象となっている。
 
したがって、新しい規制を導入するとなれば、上記のいずれにも該当しないものが対象となる。それは、茫漠たる人権制約しか有り得ない。
諸外国では法の濫用に歯止めをかけたり、人権侵害を受けた人を救済する制度があるが、日本には無い。
これは、国際標準の観点からして恥ずべき事態だと、高山教授は言う。

 
高山教授の指摘で思わずハッとさせられたのは、そもそもセキュリティ・クリアランス制度は、法律の専門知識を欠く者が立案したというものだ。
この制度の内容を分析していくと、そうとしか思えないのだ。

 
ちなみに、この法案を担当していたのは、あの高市早苗(経済安保相)である。
 
日本弁護士連合会
重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案についての会長声明
https://www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/2024/240313_2.html
 
経済安全保障分野にセキュリティ・クリアランス制度を導入し、厳罰を伴う秘密保護法制を拡大することに反対する意見書
https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/document/opinion/2024/240118.pdf
 
法律正義の女神

(人物素材:nakadakanさん https://www.ac-illust.com/main/profile.php?id=23770388&area=1
正義の女神ユースティティアS. Hermann & F. RichterによるPixabayからのフリー素材)
(背景:https://www.beiz.jp/からのフリー画像)