さる9月16日、安倍内閣で長く官房長官を務めていた菅義偉が、首相に就任した。
この新たにスタートした菅内閣を、「安倍内閣と同じ」だとか「安倍晋三のいない安倍内閣にすぎない」といった形容で批判する声が多い。
もちろん、それは間違っていない。実際、私もかなりの部分でそう思っている。
だが、そういった批判は、実はあまり効果的ではないのだ。
なぜなら、ニュースはNHKでしか視ないお年寄りや、権力者にすり寄るネトウヨ連中は、「良かった。今までと同じなんだ」と言って、ますます菅義偉を支持してしまうから。
残念ながら、そういう人たちは、人間は権力の座につくと腐敗する(堕落するとも言う)恐れがあるものだということを忘れている。
だからこそ、そうならないように常に権力者を監視する必要があるわけだ。
では、誰が権力者を監視するのか?
一般に、それはマスコミの仕事だと言われている。
だが、本当のところ、権力者を監視するのは、私たちすべての国民の義務であり、権利ではあるまいか。
そのお手伝いをするためにマスコミが存在するのだと、私は思っている。
ちなみに今日、9月21日は、大阪地検特捜部の検事による郵便不正事件の証拠改ざん発覚からちょうど10年目にあたる。
当時、文書偽造の罪に問われ逮捕されたものの、その後冤罪であることが判って無罪となった村木厚子さん(元・厚生労働事務次官)を、共同通信や時事通信などが取材して、その証言を配信している。
(村木さんは、障害者団体向けの郵便割引制度を利用するための証明書の偽造を部下に指示した疑いで、2006年6月14日に逮捕された。)
それによると、村木さんの取り調べを担当した検事は、最初から村木さんが部下に文書の偽造を指示したというストーリーを用意しており、そのストーリーを事実だと認める供述をするようにと、村木さんに執拗に求めてきたという。
そのストーリーに基づいて作成された供述調書に、村木さんの部下の人たちの事実だと認めるサインがなされているのを見せられた村木さんは、鉛を飲み込んだような気分になった。
そこには、「村木に指示されてやった」とか、「村木に『よろしくお願いね』と頼まれた」などと、ありもしないことが書かれてあったのである。
当時の村木さんは、「どうして、みんな嘘をつくのか」と、接見した弁護士にうったえた。
すると弁護士は、「誰も嘘なんかついていない。検事が勝手に作文し、そこから作文を認めるかどうかの交渉が始まるんだ」と教えてくれた。
村木さんを担当した検事は、懸命に無実をうったえる村木さんの話を聞こうともせず、「私の仕事はあなたの供述を変えさせることです」と、逮捕直後に、そう言い放ったという。
このたびの取材で、かつての部下の人たちが事実と違う供述調書にサインしたことについて、村木さんは次のように述べている。
「取り調べのプロから弱いところを突かれれば、どんな人でも事実と異なる調書にサインする」
(「新潟日報」9月20日の記事より)
検察が、その権力を正しい方向へ使わなかったとき、無実の人が犯罪者にさせられ、またその逆に、真の悪党が罪に問われることなく生き延びたりする。
村木さんは幸いなことに、裁判で無罪となったのだが、その経緯を9月21日の「東京新聞」は次のように伝えている。
(以下、引用)
(略)裁判資料を読み進めると、検察のストーリーが破綻していることをうかがわせる文書が見つかった。フロッピーディスク(FD)データの捜査報告書だ。部下が偽造証明書を作成した日時が書かれていたが、村木さんが作成を指示したとされる起訴内容の時期よりも前だった。
大阪地裁の初公判で弁護人がこの矛盾を突きつけ、証人尋問では部下らが次々と「調書は検事の作文」「村木さんとのやりとりは全部でっち上げです」と告白。10年9月10日、村木さんは無罪となった。
(引用、終わり)
そして、村木さんの無罪判決が出た直後に、大阪地検特捜部の主任検事が証拠品のFDデータを、用意したストーリーに合わせて改ざんしていたことが発覚、証拠隠滅容疑で前田恒彦検事(当時)が逮捕され、有罪となった。(懲役1年6ヶ月の実刑判決)
改ざんが行われた当時の特捜部長と副部長も、改ざんは故意だと知りながら「過失」にすり替えて検事正らに虚偽報告したとして、犯人隠避容疑で逮捕され、これまた有罪となった。(こちらは執行猶予付き)
私がこのたびの報道を読んで、つくづく思ったのは、誰もが村木さんのように無実の罪で逮捕されうるということ。
そうならないためにも、私たちは検察や警察、さらには政治家といった権力者を監視する必要がある。
そのためにはマスコミの報道が重要な役割を担う。
最後に、9月21日付の「東京新聞」に掲載された村木さんの言葉を紹介して、今回のブログ更新を終えたい。
事件後、捜査手法の問題点がクローズアップされ、無理な取り調べをしていないかチェックする仕組みとして、一部事件での取り調べの録音・録画が法制化されたことについて――。
「適正な取り調べの第一歩になったとは思う。でも、まだまだ。すべての刑事事件にまで広げないと。弁護人の立ち会いも認めるべきです」
マスコミに対しては――。
「メディアも当局から流された情報だけに乗るのではなく、節度ある取材や公正な報道を心掛けてほしいですね」
検察に対しては――。
「人には必ず弱い面がある。弱いところを突かれれば、うその自白をしてしまうことはあると思う。検察は事件の教訓を忘れず、冤罪を生み出さない努力をしてほしい」
無実の勾留164日「検察権力は抑制的に使って」 元厚労次官・村木厚子さんの訴え 証拠改ざん事件10年
「東京新聞」2020年9月21日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/56779