【第6話:自立塾誕生物語★酒とお金とチンピラ】 | 市川潤子の 子育てというよりも【子供に育ててもらっているな】ブログ
お酒なんか、無ければいいのに…



お金なんか、無ければいいのに…




私がチンピラに出会ったのは、4歳の時だった。


引き取られた家の「お父さん」には、5人の兄弟がいて

その1人が、

俳優の要潤に似た、
長身のチンピラだった。



「アニキーっ!
酒くれてくれーっ!」


「アニキーっ!
金くれてくれーっ!」



4歳の私には、
あのチンピラが来ると


瞬間湯沸し器の如く、

巨大なる怒りがふつふつと込み上げてきていた。



だって、のんびりとコタツで寛ぐ家族タイムが


あの騒音で瞬時に、
かき消されてしまうからだ。



穏やかな父と祖父の顔が、

チンピラのせいで、鬼の形相に変わってしまう。

私はこの家に来て、

玄関の鍵をしめる習慣が定着した。



ドンドンドンドンッ!!
ドンドンドンドンッ!!
ドンドンドンドンッ!!


「アニキーっ!おやじーっ!」




父が帰宅していない時は、怖くて怖くて仕方なかった。
でも…



私には、




泣いている暇なんて無かったんだ。



ぐでんぐでんに泥酔したチンピラは、


叫ぶし、
暴れるし、
物壊す。



「なあ、潤子。
ヤクザとチンピラの違いが、わかるか?

チンピラはな、礼儀が無いんだぜ。

だけど、ヤクザは違う。
筋が通っているんだ。


いいか、よく覚えておけ。
俺は…」


チンピラは、得意顔で切り落とした指を私に見せた。

それが、4歳の時だった。



(お前なんか、チンピラだ!!)


私はいつも、奴が来るとコップに水を汲んだ。




「弟が、ご迷惑おかけして本当に申し訳ありません!!」

かたぎの父は、

警察に呼ばれ

家賃滞納を平気な顔でするチンピラの大家さんに、呼ばれ

泥酔したチンピラが居酒屋で暴れては、呼ばれ



朝から晩まで地道に働いたお金で、

いつもいつも、肩代わりしていた。


自立塾で金銭教育を小学1年生から指導しているのは、

まさにこの過去から学んだ【ある事】が理由にある。


お金を語ることをよしとしない日本の文化に、

これからも警鐘を鳴らし続けたいと、

そう強く思っている。




やがて足腰弱ってきた祖父は、

寝たきりになってからは、腰が痛くて叫んでいた。


排便も出来なくなると、

夜中にモゾモゾと動き始め

ベッドから転がり落ち、


その苦しみと悔しさを声に含ませ、何度も叫んだ。



手におえぬ馬鹿息子がいて、
その尻拭いを黙々とする、わが息子もいて


自分は寝たきりで。



亡き祖父の気持ちが、これを書いている今でも伝わってくる気がする。




言葉にならぬ、気持ちなのだ。


どこにもぶつけられない、歯がゆさ。


それにとどめを刺したのは、やっぱりあの男だった。



ガッシャーン!!

玄関の扉が、土間に倒れてきた。



いつも以上に叫ぶチンピラに、私たちはおびえた。



だって…



だって…





まだ、お父さんが帰って来ていないのだもん!



母が1人で玄関に行こうとした。


私に妹2人を託して。

絶対危ないと、私は妹たちを安全な部屋へ置き


決して母から離れなかった。



「おい!酒出せよ、酒だあああああーっ!」


もう、母一人では太刀打ち出来ないのは明らかだった。



(誰か!!誰か!!助けて!!)



その時!!




「馬鹿野郎ーっ!」


凄まじい叫び声に、気が動転した。

そ、祖父が、寝たきりのはずの祖父が、

立っていたのだ!!


奇跡というよりも、

それは異常な光景だった。
奇妙だった。


けれども

あんなに心が込められた、
意味深い【馬鹿野郎】は初めて聞いた。
心に、響いた。


バタッ
(…!?)

「おじいちゃん!?

おじいちゃーん!!」



もう、我慢の限界だった!!


瞬間湯沸し器の如く怒りだした私は、



全ての思いを込めて、

チンピラに水をかけて叫んだ。




「お前は、ヤクザなんかじゃない!チンピラだああああ!」



その夜から意識不明の重体になり、



一週間後、息を引き取った。




大切な人を、なくしてしまった…


通夜の日、

祖父が夢枕に立った。


私が、手を差し伸べようとすると


笑顔で消えてしまったのだ。




3月25日、

桜は私を





なぐさめてくれた。



桜は散るが、美しい。
今は、そう思っている。


お金は、人を変える。

そして酒も、人を変えてしまう。



それから数年後。

チンピラの最期は、
あっけなかった。



桜は散るが、美しい。

祖父とのお別れは


小学4年生の、春の出来事だった…




次回は、内容がこれの続編です。
第7話【自立塾誕生物語★遺産相続に出た化け物たち】

この物語は全て、ノンフィクションです。
全作品、著作権は放棄していませんので、宜しくお願い致します。

最後まで御覧いただき、有難うございました(^人^)