引き出しの整理をすると、奥から出てくる、竹炭の板。
ジーラさんの大切な物。
かれこれ、十年は、経つのに、竹炭の板は、元のまま。
当時の、ジーラさん、
顔中、アトピーで、メイクも出来ず、赤く腫れた、ひどい顔。
店員さんですら、下位ランクの扱い。
子供には、後ずさりされる始末。
「知らない人が、嫌そうにするのは、腹が、立つけど、しょうがない。
だったら、ジラちゃん、誰でも分かるような、ブランドの物を、持ったら良い。
店員さんは、プロだから、持ち物を見て、ちゃんと、接客してくれるよ。」
ジーラさん、正直、これまで、ブランド物を、持ったことが、有りませんでしたが、
娘ちゃんの、その、御意見を、採用して、貯金を、下ろし、いざ、デパートへ。
季節は、丁度、今頃。
デパートの一階で、娘ちゃんが、ちょっと早い、誕生プレゼントと言って、
グッチのお財布を、奮発してくれました。
「これで、百人力。有難う、娘ちゃん。」
「まだまだ、次は、バック。」
バックは、二階。
エスカレーターの、壁に、点々と貼られた、催し物の案内は、うまいもの会。
「ねぇ、娘ちゃん、父に、金沢のお煎餅、買って行こうか。父、好きだから。」
「お茶もね。ジラちゃんだったら、スーパーのお茶ばかり、父、可愛そうだよ。」
まるで、父が、生きている様に、話すのが、その頃の、二人の、常。
催し物会場は、沢山の人で、ごった返。
何処に、お煎餅が、在るのか、もう、迷子状態。
人いきれで、うっすら、汗までかいて、
湿疹の薬が、ギトギトしてきて、顔が、むずむず。
それでも、前を行く、娘ちゃんの後で、遅れないよう、急ぎ足。
「お茶、飲んで行って。」
前に差し出された、小さな、煎茶茶碗。
煎茶茶碗を、持つ手の主に、目を遣ると、そこには、
父を、一回り、小さくしたような、元気な、おじいさん。
父も、会社で、ワイシャツに、こんな、カーデガン、羽織ってた。
父より、少し、若いんだろうな、でも、白髪の感じが、凄く、似ている。
まるで、父に、笑いかけられてるような、懐かしさで、足を止めた、
ジーラさんの前には、小さな、お茶屋さんの出店。
「美味しいお茶だから、飲んでごらん。」 おじいさんが、笑いかけて、
緑のお茶を、勧めてくれます。
こんな、汚いジーラさんに、お茶を勧めてくれるなんて、
なんて、凄い、商人。と感動しながら、
「ごめんなさい。アトピーで、今は、お茶、飲めないから。」
「大丈夫、家のお茶は、アトピーの人も飲んでるから、
悪い物は、全然入ってないから、安心して、飲んでみて。」
ほんまかいなぁ、と思いながら、
丁寧に、お断りしている所に、やって来た、娘ちゃん。
「娘ちゃん、飲んでみて。」
「美味しい。」娘ちゃんの、一言で、お茶の、購入、決定。
おじいさんが、選んでくれたお茶は、千円の、お煎茶。
お茶を、包みながら、商品の箱から、竹炭の板を取って、
「これを、付けてあげるから、やかんに、この板をいれて、お湯を沸かしてごらん。
お湯が、まろやかに、なって、アトピーでも、きっと、お茶が、飲めるよ。
それに、この板は、乾燥さえしていたら、永久に使えるから。」
おじいさんは、優しく、笑いながら、お茶の包みの中に、
お煎茶の値段の半分もする、竹炭の板を、入れてくれました。
おじいさんの、優しさが、ジーラさん、どれだけ、嬉しかった事か。
沢山、お礼を言って、お家で、お茶を飲んでみましたら、すっかり、病み付き。
あれから、ジーラさんの、飲むお茶は、おじいさんのお茶だけ。
金沢から、お取り寄せです。
優しさの詰まった、竹炭は、勿体無いので、引き出しに、大事に、保存。
竹炭を、握ると、優しい気持ちが、蘇ります。