乗りに乗っている日本料理店である。
北海道出身の強気の店主が繰り出す料理は、界隈に生息するニューリッチから、オールドリッチまで幅広く支持され、予約困難な人気店にのし上がった。
それゆえの副作用であろうか。
8席ほどのカウンターでも、港区っぽい若者がウェイウェイする光景が見受けられるが、2つある個室からはさらなる酔客らの嬌声が聞こえてくること、しばしば。場所柄といってしまえばそれまでだが、この価格帯でこれほどまでに賑やかな日本料理店というのも珍しい。
若き店主やスタッフたちに、客あしらいを求めるのも気の毒かもしれない。客の側の自重が求められるところだが、パリピは幾つになっても治らないんだろうな。
そんなこんなの中で食事をしたのは、9月の終わり頃のこと。
初手は、毛ガニと菊花、いくらの和え物。嫌う理由がない食材の組み合わせで、色味も華やか。気持ちも上がる前菜である。
次いで、早くもまさかの揚げ物。浜名湖の鰻の揚げ出し。ビールもシャンパーニュもススム君な展開。穴子ならともかく、鰻を揚げるという、やや禁じ手に近い調理方法だが、「焼く・蒸す」だけがほとんどの食材ゆえに意外性が面白い。
網走の釣キンキに岩手の松茸のお椀。素敵な塗で出てきたが、これも意外な、というか初めての取り合わせ。キンキを椀ダネにするのが、そもそも珍しい。北海道出身の店主ならではであろう。ただ、京都原理主義者たちからは、その強い脂について異議が出そう。
一転、オーソドックスな蒸し鮑。美味いに決まっている。
揚げフカヒレとキャビアの飯蒸し。このあたりがニューリッチ・パリピを惹きつけてやまないのだろう。しかし、この路線で良いのだろうか?
ちなみに写真を撮り忘れたが、造りは鹿児島の鰹と利尻の平目であった。
焼き物は抜&群。茨城産の乳のみ子鳩と松茸の煮びたし。鳥類が乳を飲むはずもなく、「乳のみ」というのは幼鳩の言い換えの言葉遊び。
私は、フランスやエジプト、香港などで鳩をたくさん食べてきたが、これほどの質のものはちょっと記憶にない。 「茶禅華」なども使っているらしく、少ない生産量は奪い合いの対象と言われて、納得。
いつものゴマダレせいろに、天然の舞茸天ぷらのおまけ付。
栗のデザートに至るまで、いつもの通り、料理は隙なし。
良い食材を使っているから当然なのかもしれないが、しかしそれにしてもジリジリとお支払は高騰が進んでいるような。
まあ、仕方ないか。