ジビエ自慢の店というのが結構増えたけれど、オフシーズンとなる春夏は集客が鈍るもの。
ところが、ここ「ラチュレ」ときたら、いつ行っても客が入っている。
オフシーズンといっても、ジビエのパテアンクルートなんかには、穴熊だの何だのが入っているのだが、若いお嬢さんたちはそれくらいモノともせずに、ボリボリ食ってしまうのだから、日本人の食習慣は変わったのだ。
とはいえ。
フレンチすれっ枯らしの私なんぞが行っても、いまだに驚く料理が出てくるのだから、この店は奥が深い。
今回の隠し玉は、カスレ。それも、海亀入り。正式に認められた捕獲により供給されたものだ。
今までも、コンソメやタルタル(生)などで食べさせてもらってきたが、まさかのカスレ。
こんなのを出すレストランが日本にあると知ったら、全トゥールーズ(カスレの本場)市民が驚愕しておののくことだろう。
実に貴重な体験をさせてもらった。
まずは、ガトー・フォアグラ。パンデピス、フォアグラ、レーズンにソースのジュレ、という構造。小さいのが一切れだけ、というのが何ともじれったくなるくらいに美味い。
トウモロコシのムース、マヨネーズを練り込んだサブレ。シェフはマヨラーなのだろうか。いや、そんなことはどうでもよくなるくらい、ムースが甘く滑らかで夏らしく涼やか。
製麺会社・浅草開化楼の皮を使った、猪とフォアグラのワンタン、熊コンソメとトリュフ。ラビオリにピンときていなかったシェフが、「日本人はやっぱりワンタンだろう」と思い立って作った一品。たしかにチュルンとした食感は、ラビオリにはないもの。熊出汁の野趣と、フォアグラで脂分がブーストされた猪が、ビンビンと主張してくる。そんな暴れん坊たちをまとめ上げる包容力が、ワンタン皮にはある。
タイラギと土佐小夏という柑橘、新生姜のジュレと九条ネギなどを添えて。涼感たっぷりで、柑橘の酸も鮮明。美味しいのだが、ワインは難しい。冷酒を求める料理だと思う。
これがその、海亀のカスレ。エンペラ的なものや肉がゴロゴロと入っている。メインの料理としても十分やっていけるパンチ力。スッポンを超える肉の重厚感があり、私にはもはや必要のない無駄な精力がつきそうだ。ゼラチンのねっとりしたエキスが、口中にまとわりつき、何ともエロティック。
ご自慢のパイ包み。この夜は、オマール1匹を詰め込んだもの。ソースはブールブランに、茶色いのが良く詰めたアメリケーヌ。王道フレンチの魅力、バターやクリームで食欲が満たされていく感じが、実にいい。
京都・七谷の飼い鴨のロースト、赤ワインソース。身質がとてもむっちり、ねっちりとして、香り高い。野鴨とは全く別のものだが、よくある輸入物と比べると、こちらの方が良質。日本の生産者は、本当に努力を惜しまないね。
メロンと生ハム、レモンバーベナのデザート。ここのデザートは、いつもトリッキーで面白い。
客入りが良いのも納得のコース。月イチで行きたいものだ。