なんでまた、こんな時期に――、と言いたくもなる。
2020年8月に神戸から移転してきてオープン。言うまでもなく、コロナの世の只中である。
昨年末あたりに店舗の賃貸契約などをしてしまい、神戸の店も畳んでしまって、後戻りができなかったのだろうと推察する。
シェフの人柄ゆえであろうか、修行仲間などによる「アナウンス効果」もあり、訪問時は満席であった。
ただ、ご祝儀的な賑わいが一巡した後、はたしてどうなるか。秋冬のコロナ第3波、4波も気がかりだし、何より冷え込んだ経済の影響で、人々の財布のひもがしまりそうな気配がする。
そうなると、コース15000円という価格帯の店は、一番厳しいゾーンかもしれない。
修行先の一つである三田の「コート・ドール」のような岩盤・太客層がついていれば、高くても問題ないだろう。
兄弟弟子の「ラシェット・ブランシュ」のように、素晴らしき費用対効果なら、これもファンは離れないだろう。
「これ!」というウリ、魅力を示して、印象的な食後感を残せるかどうかが、存亡を分けるような気がする。
「コート・ドール」の名物・赤ピーマンのムースにガスパチョソースを加えたもの。ムースはさすがなもので、トマトの汁で作った透明なジュレも涼味があって大変結構。
琵琶鱒のマリネにディルのグラニテをかけたもの。それと季節野菜。マリネの具合は良いのだが、野菜との関係性が不明瞭。この種の
「2点盛り」は、どうも安っぽく見えてしまう。
淡路仮屋産の鱧の瞬間炙りと焼きナス。ソースはチミチュリで、各種ハーブが香る・・・のは良いのだが、鱧をイワタニ的ガスバーナーで炙った時のガス臭さが鼻につく。火入れや見た目の点でも、疑問符が付く。
鳴門産アワビの酒蒸しと北海道のウニ、カリフラワーのムースにコンソメドゥーブルのジュレ。アワビもウニも贅沢に使い、写真では分かりにくいが、コンソメのジュレも素材に負けない主張ぶり。単体としては文句なく美味しい。
ただ、ここまで、ずっと冷たい料理が続いている。しかもマリネ、瞬間炙りにこの料理と、おおむね生に近い魚介が続くのも、ちょっと飽きが来る。とくにこの料理が冷たいので、果たして構成的にどうなのか、再考が必要かもしれない。
八幡浜産の白アマダイのポワレ、ういきょうのピュレとソース。やっとここで温かい料理。仕入れの高い白アマダイをシンプルにポワレ。ソースも夏向けに爽やかな仕立てとなっている。ストレートにおいしい。
ここで、口直し。桃とセロリの冷たいスープ。まあ、確かに外は熱帯夜であるから、とにかく冷たいものを、という気遣いは分かる。が、上の写真と並べるとパッと見の印象も似ており、はたしてどうなんだろう。
メインは北海道産子山羊の炭焼き、ジュのソース。炭があるなら、さっきの鱧も炭で「焼き霜」にでもすればよいのに、と思ったりして。
で、この子山羊、とても品が良い。タテル・ヨシノで良く出していた鹿児島の山羊のカルパッチョよりも、癖がない。偏見さえなければ、万人に受ける肉だと思うが、ただ若干、華がないような気も。
デザートはすもものグラニテに、写真撮り忘れたがジャスミンティーのブランマンジェと、最後まで冷たいシリーズ。
オーセンティックな料理で好みではあるが、コースの構成など、これから細部まで詰める必要がありそう。
競合店の多い港区で、どう生き残りを図るか、年末に向けて真価が問われそうだ。