今の食の世界は、なんとも軽佻浮薄である。
SNSの登場で、見栄えや話題ばかりが重視される。
食メディアがそれを煽る。
不味かろうがなんだろうが、とにかくキャビアを載せて、産地なんかどうでもいいからトリュフをふりかけ、ウニかトロか霜降り牛肉が入っていれば、何でもOKというわけだ。
パパ活女子というのが登場し、さらにこの傾向に拍車をかけた。
料理そのものではなく、予約の至難度とか支払いの高額度が重要。
かわむら、スガラボ、鮨さいとう、くすのき――。
そういう店に行ける私、そういう店の料理写真をアップしている私。心からの「美味しい」よりも優越感、目に見えぬ何者かに向かってドヤれることが優先される時代、なのだ。飲食業界の健全な発展に、果たしてつながるのかどうか。
さて、この店「御成門はる」、店主の出身は「くろ木」だから、さぞかし「映え」系なのだろうと先入観を持っていたが、その逆で、見た目は全然映えない。パパ活女子からは敬遠されそうな、しみじみ系なのであった。
最初は、若鮎を開いて揚げ、赤青のピーマンなどを添えた揚げ浸し。揚げたてアツアツ、出来立てすぐの「アラミニッツ」料理。一気に期待度が高まる。
目の前の店主が鉄瓶で丹念に炒り上げた胡麻を和えた隠元。ゴマを入れた鉄の急須を熱源の上でフリフリしている姿は、いかつい顔とギャップがありすぎ。しかし、炒っている時から香りが立ち込め、鼻腔から食欲を刺激される。水を含ませてふっくら炒った胡麻を、程よくあたって、本当に良い香り。ちゃんと作ればこれだけ美味くなるのか、と眼から鱗。
賀茂ナスにつくね芋を出汁でのばしたものをかけ、ウニを添えたもの。この店ならではの「うになす」。
白アスパラの吉野煮。焼き立ての白アスパラに、アツアツの葛出汁。見た目は素朴だが、味にはどこか凄みがある。
里芋の炊いたもの。こんなもの料理屋で食べなくても、と思うかもしれない。が、料理上手なおばあちゃんと同居していない寂しき都会人にとって、良く出来た芋の煮たのは、心にじんわりくる。
揚げ物2点。力強いグリーンアスパラと、薄くスライスした平貝。
味噌が詰まった熊本の渡り蟹に叩きオクラ、蟹の殻でとった出汁をかけたもの。蟹を珍重しない私だが、身質の詰まり具合や味噌の甘さなどに感服。
アツアツ煮あがり穴子の寿司。冷めたのを温め直して握る寿司屋のとは、わけがちがう。
型のいい、上質のトリ貝はほんのり火を入れて。
佐島の蛸は、ほうじ茶でサッと蒸してから低温で火入れ。マコガレイは魚醤出汁で食す。
東京湾で採れた、日本固有種の蛤と冬瓜の炊き合わせ。しみじみ系だが、貝の旨みは強烈。
有明海でいうところの「まじゃく」、穴ジャコの揚げ物。
秋田のじゅんさい。
見ての通り。でも甘くて上手に炊いている。
海鰻の白焼き。
一塩したアマダイの小鍋。
マグロの「とっさき」を佐渡のコメに載せて。
ご飯3連発の後に・・・。
さっきのグジ鍋の雑炊でトドメ。
宮崎のマンゴー「太陽のたまご」と桃と白小豆の水菓子。
映えないが、品数も多く、超満腹。
安くはないが、銀座の妙な店で大枚はたくなら、こちらをおススメする。