私なんかは通ったうちに入らないと思うが、それでも結構長い間、ちょいちょい食事をさせてもらった広尾の「アラジン」。
日本フレンチ界を長年牽引してきた川崎シェフが、とうとうというか、早くもというか、店を退くことに。
今後は福岡に拠点を移し、悠々自適、気楽な晩年に入るのだとか。
それでも厨房に立つことは止めないらしい。
素晴らしい食材に囲まれた環境だというから、すぐに料理人魂がムクムクと湧き起ってくるだろう。
ともかく、広尾での料理人生活は終了し、店は後進に任せることに。
初春の某日、川崎シェフがいる店で、最後の食事を出してもらった。
軽く火を通したヤリイカとタルディーボのサラダ。苦み走った野菜とイカの甘みのコントラスト。
赤座海老とグリーンアスパラ、モーリーユのバーニャガウダソース。適切な火通しがなされた具材と、コクのあるスープ。単純に見えて、奥が深い。
黒トリュフの香りを移した半熟卵にセップのピュレ。これもシンプルだが、フランス時代に培ったのであろう技巧が尽くされている。
ボルドー産の白アスパラガスに、北寄貝、うるい、空豆のブールブランソース。日本食材を使いながら、味わいは完全にフレンチ。広尾での歳月を感じる一皿。
春の定番、フォアグラの詰めたふきのとうのフリット。この料理、ファンも多かろう。苦みとフォアグラの脂が口中で交差。
平目にアサリ、ホタルイカ、甲殻類のソース。これもソースはどクラシックながら、日本の旬を取り入れて、広尾の料理に昇華している。
リムーザン産の仔羊のロースト。付け合せのジロールを含めて、これは完全にフレンチの皿。自らが学び、実践してきたことを形にした料理であろう。
あとは、教え込んできた愛弟子たちしだい。応援したくなるほど努力して、店を盛り上げてほしいものだ。
まずはコロナを乗り切ることか。