雪の山里にて 美山荘 京都・花背 | 御食事手帖

御食事手帖

主に東京と湘南で食べ歩き、でも美食のためならどこへでも旅するブログ

わざわざここで食するためだけに旅程を組む価値のある宿である。

当たり前だ。

わざわざ旅程を組まないと、おいそれとはたどり着けないのだから。

特に真冬、雪が降ったら。

 

この「美山荘」、住所的には京都市左京区にある。

が、京都とは名ばかりで、市中から福井・小浜までの100kmの道程の、ちょうど中間点くらいの山の中なのだ。

一晩で一気に積る雪をみるかぎり、ここはむしろ北陸。

 

そんな花背の離れ宿、アクセス同様、宿泊の予約もまた至難である。

週末だと半年、1年先は当たり前。わたしなんぞ、この次の予約は2022年と言い渡されたのだから、そこまで生きていられるか、不安になる。

 

だがしかし、ここの魅力を満喫するには、やはり1泊はした方がいい。日帰りの昼食もやっているが、それではせわしない。

 

部屋はいたってシンプル。テレビもない。かすかにwi-fiが飛んでいるくらいだ。

外は前日に積もった雪景色。雪をかぶっているが、ここは月見台である。

さあ、お楽しみの夕食。

香り高いヨモギ豆腐に、ユリ根、そして揚げた氷魚をのせたもの。ヨモギ本来の香りが口いっぱいに広がり、なんともほろ苦く、おいしい。

続いて、温かい白味噌椀。自然薯をすって揚げたものと共に。この品の良い甘みの白味噌の、滑らかな液体にうっとりしてしまう。

造りは鯉。どこそから来た鯉を、目の前の小川で活かして、臭みを抜いてある。本当に澄み切った味わいの身質で、鯉に対する概念が変わる。

八寸。ふきのとう白和えが抜群。子持ちモロコ、熊の炊いたの、黄身味噌漬け、赤カブと柿のゆべし、のびるとこごみの天ぷら。

素朴だが、手抜きのない端正な料理。

近隣で採れた猪のほほ肉の実山椒風味煮込み。下には海老芋のつぶしたものが、ピュレのように潜んでいる。

これは、今回の滞在中のベストな一皿。猪の脂、ゼラチン質が素晴らしく、煮方も上手。

京筍の塩釜。ばちこも添えてある。筍の火通しとして、これはいい。持ち味の甘さが、ストレートに味わえる。

近隣で採れた鹿の寿司。血の風味がすごい。

スモークした鯖のつみれ・みぞれ椀。そう、ここは鯖街道の裏道。

アマダイの松笠。身はしっとりで、これも火通しが上手。

近隣で採れた熊の鍋。脂ののりも良く、程よい獣っぽさ。

分かりにくいが、あさりたっぷりの炊き込みご飯。

雪の山中で、春の声を聴く思い。

日向夏と牛乳のババロア。上の赤いのが日本の野生種のベリー。

 

日本ジビエを堪能。一部を除くと、概ね地産地消であり、岐阜の某店とは雲泥の差。

満腹のまま、布団へ潜り込む、幸せな一夜であった。