食は毎日の体験である。
重ねた体験の質と幅と記憶の量が、その人物の食への理解力を形成していく。
年末年始に出かけたパリでは、結構痛い目にあった。特に金銭的な意味では・・・。
しかし、行って食うのと、そうでないとでは、やっぱり大きく違う。
パリでバカ高いだけで大したことない2つ星や3つ星を体験したことで、東京の飲食業界への評価がグッと上がった。
今、日々の外食が、前よりも肯定的に捉えられるようになったのだから、怪我の功名とでもいうべきか。
この店、「ル・スプートニク」は、以前はやや高いな、と思っていたが、今はバーゲンとは言わないまでも、料理の質と見合う支払いだと心から納得できる。
特に、メインの野ウサギのパイ包みは、記憶に残る一皿であった。
定番アミューズの後の前菜。アンキモと下仁田ネギのテリーヌに、和風の出汁ジュレをかけたもの。
鰹節などの風味がほのかに香るジュレで、フレーバーの使い方が穏やか。フランス人がやるとこうはいかない。
新玉ねぎのプリン。緑の豆各種の煮汁にウニとエンドウの芽。自然の甘みが口に広がると、自然に口角が上がってくる。
海の物と山の物の出会い。これは良く出来た前菜。
富山で良く食べるガス海老にコブミカンで風味づけ。ライムと芽ねぎ、オリエンタルなスパイスがアクセント。
タコとじゃがいもを煮たもの。和食感丸出し。ただタコが柔らかすぎて、ここまで繊維を崩すと食感的に頼りない。
イノシンとフォアグラ、 トリュフのチリメンキャベツテリーヌ。 トリュフのシャンティを添えて。
抜の群。素晴らしく美味い。イノシシの野趣とフォアグラの滑らかな脂と猪ジュレをまとったキャベツのしゃきしゃき感とが混然一体となって、口の中を賑わす。文句なしの一皿。
写真ではわかりづらいが。
七キロの和歌山産のサワラと 蕪、 晩白柚に 柚子こしょうクリーム。上にははこべを散らして。
こう書くとまるで和食のようだが、着地でちゃんとフレンチに持って行っている、ような気がする。
メインその1。種子島で採れたキジバトのモモに、各部位のミンチとトリュフを詰めたロースト。
超高級な手羽ぎょうざ――、といったらシェフに屠られそうだが。まだ慣れない野鳥らしく、改良していくそう。
メインその2.。
メインの食材のしゃれこうべ。
これが野ウサギのパイ包み。煮込んだ野ウサギとトリュフ、ソースをパイに詰めて、焼き上げた一品。
野ウサギといえばロワイヤルだが、このスタイル、実にいい。生一本で攻めてくるロワイヤルもいいのだが、こちらの方がパイ生地のバター感や食感が加わり、食べ進める楽しみが増える。
デザートは、キウイソルベ、レモンライムクリームにジンジャーのジュレ。めっちゃさっぱり。
こちらは意欲作。フランスのチョコに金柑、酒粕日本酒クリームのデザート。
パリの日本人たちの活躍を意識しているのだろうか。
和への傾倒を強めた感じではあるが、しかしメイン2つはどっしりクラシック。良い比率だと思う。