東京にはジビエにこだわる店がかなり増え、料理人が猟師に化ける人も珍しくなくなってきた。
ただ、個人的な印象として、ジビエ自慢の店が必ずしも美味しいとは限らないように思う。
料理に打ち込んでいるシェフは、そうそう猟場まで出かけている暇なんかない。休みの日でさえ仕込みをやっているような人こそ、本当に良い料理を出すわけで、2足のわらじがそう上手くいくはずがない。
この店「ラチュレ」のシェフも、自ら鉄砲を持つ人だが、それほどのめり込んでいるようでもなく、軸足はあくまでも厨房、という感じ。
要は比率の問題で、料理人が猟場の事情や獲物に対する経験や知識を積み上げていくこと自体は、間違いなく良いことであろう。
さて、12月初旬にうかがった際のコースは、適度に海産物が織り交ぜられ、バランスが取れた内容であった。
鹿サラミのケーク・サレ。
鹿チョリソで風味をつけた、鴨の卵リゾット。白トリュフがなくても、大変おいしい卵がゆ。
これはたまげた、熟成キジのブイヨン。ムキ茸とナラ茸に伊勢海老の真薯が入っている。ブイヨンの香りが鮮烈で、エポワスの皮やクサヤのような発酵・熟成香が立ち上る。それに負けない野生のキノコの旨みが加わり、口中に波が打ち寄せるようなスープであった。
珍しく魚。平目とマコモダケ、小松菜に乾燥させた鹿のパウダー、いわば「鹿節」をかけたもの。周囲の緑の粉は、小松菜パウダー。
キジのパテアンクルート。この店は客によって、ジビエのパテアンとこれを出し分けている。私には、こちら、シェフ自らが仕留めたキジを、優しい風味のままパテにしたものを出してきた。やはりキジのコンソメのジュレがいい味わい。
これは秀作、白子とフォアグラ、鹿のソシスのパイ包み、マデラソース。見ての通り、この種の料理にしては、パイ生地がギリギリの薄さ。中身の食材とのバランスがぴったりで、しかもサックサク。3種の具材にマデラソースが絡むと、得も言われぬ味わいである。これは、また食べたい。
メインは、スコットランドのヤマシギ、ベキャスのサルミソース。生々しくジューシーな火通しが絶妙。内臓のペーストから、頭の脳みそまで、どこもかしこも旨い。ソースは、この種のものとして、お手本と言ってよい出来栄え。
デザートは、パール柑とクリーム、メレンゲに山椒パウダーをかけたもの。緑色のタケコプターみたいなのは、山椒の双葉だそうな。
この内容で、文句などあろうはずがない(イチロー風)。
冬の間に、もう一度、行かねば。