こんな時だからこそ、香港に行ってあげたい。
でもちょっと怖いし、時間もない。
しかし、うまい広東料理は食べたい。
そんな悩みを抱えた人は、錦糸町へ行けばよい。
香港の「夏宮」や福臨門で腕を磨いた本場シェフ・トミーさんが作るのは、潮州料理をルーツとするインドチャイナ系の香港料理。
パクチーやバジルを多用するスタイルに独自色が現れている一方で、広州原産の「 龍崗鶏 」のパリパリローストには、福臨門の系譜が色濃く滲む。
錦糸町という立地がまた何とも言えず、ベースのコース料理6500円という設定も良心的。
ここへ来る前週にうかがった「サエキ飯店」とは、似ているところが多々ありながら、違いも明瞭。
こちらの方は、万人受けを狙っておらず、より本場に忠実であろうとしている印象だ。
卵白と金華ハムのスープ。何気ないスープだが、ベースの湯のコクがしっかりしていて、余韻が長い。
南方風イカのすり身揚げと、鶏の白子ペースト揚げ。鶏の精巣を卵と出汁でのばした揚げ物は、絹ごし豆腐のようなテクスチャー。
パクチーサラダ。今では珍しくなくなったが、それにしても苦手な人は多かろう。それでもコースに組み込むところが男らしい。
脆皮炸子鶏 。 龍崗鶏 (ロンコンガイ)の姿揚げ。これは抜群にうまい。パリパリの皮もさることながら、その下の黄色い脂が何とも言えず、どの部位も持ち味が鮮明。これを食べるためだけでも、錦糸町くんだりまで出向く価値はある。
牛肉ガパオとジャスミンライス。パリッと揚げたスイートバジルと大振りに刻んだ牛肉がユニーク。
「郊外油菜」。なんでこういう料理名なのかは知らないが、ただのアスパラやブロッコリーが何でこんなに美味くなるのか、と不思議でしょうがなくなるおいしさ。「湯」の力なんだろうな。
もち米の炒飯。独特の食感で面白くはあるが、他の料理ほど響くものはない。
追加でオーダーした、上湯麺。「サエキ飯店」の上湯より、鶏のコクが野太い。こちらはいわば「剛」のスープ。
サエキの方は「柔」でより繊細。麺そのものはサエキの方が好み。
この種の店は、なぜかは知らねど「自然派ワイン」というのを好む傾向があり、ここもそれ系のワインがたくさんある。
正直言って、普通のワインが飲みたいのだが、今の流行りだから仕方がない。
料理は大変興味深いので、また遠からずうかがいたい。