ここに来る楽しみは、革新と古典の混在、コース構成の意外性にある。
似たような店はいくつもあるが、その中でもここはクラシックに妙にこだわっている。
私のような90年代フランスを懐かしむ人間には、その温故知新ぶりが何とも好ましい。
今回は、メインの料理でちょっとびっくりさせられた。

こちらは、ホタルイカときゅうりの冷菜。きゅうりのスープをジュレにして全体をまとめ、上には葉わさびの花を散らしている。青唐辛子のアクセントもあり。まるで和食のような味の構成だが、日本料理屋でここまで創造力のある前菜を出す店は、案外ない。

稚鮎とごぼうのフリット。五香粉をまぶしてある。
これを食べないと、ここに来た気がしない、というくらい今や脳に刷り込まれた料理だ。

新玉ねぎのブランマンジェ。空豆、グリーンピース、えんどう豆の、ブルーテより緩いのをかけてある。上には豆苗。
ありがちな一手だが、ブランマンジェの舌触りとか、細部の仕上げが優れている。

サヨリのカルパッチョ。ウドで苦み、グレープフルーツで酸味を加え、ハーブオイルを利かせてある。ちらした赤水菜も面白い。

泡の中には、はまぐりの殻に乗せたホタテのクネル。貝のエキスを泡にしている。

中はこんな感じ、といっても見えにくいが。

ここのフォアグラにはいつも驚かされるが、今回もなかなか。
ポアレの周辺は、エスプレッソのゼリーシート。清美オレンジのソースで甘みと酸味を加え、パンデピスの粉で、さらに甘みと香りを足している。
こんな組み合わせ、よく思いつくものだ。

ここで、古典のチェンジアップ。
フランス産白アスパラガスのサヴァイヨンソース。
腕前が丸見えとなるソースをあえて出してくるところに、シェフの自負を感じる。

魚料理は、皮パリのアマダイにサクラエビのブルーテ。ありそうでなかったサクラエビの使い方。軽くて風味の異なるアメリケーヌソース、という感じだ。

メインで再びクラシック。和牛のパイ包み。フォアグラと肉厚のシイタケを入れている。
出てきた当初、パイ皮が若干湿気ていたが、すぐにパリパリ度を取り戻す。
ベタベタのフレンチだが、実にうまい。こういうの、ちゃんと作れるシェフなんだなあ、と妙に感心してしまった。


文句なしのデザートが続いて、コースは終了。
「フロリレージュ」なんかより、私はこちらに発見と楽しみを見出す。
まだしばらくは、コツコツ通ってみようと思う。