時々、そんなことがある。
この店「タニ」は、調べたら2年以上、行ってなかった。
以前もそんなに通っていたわけでもないから、忘れられてて当然、と思ったら覚えていてくれた。
三田の「コート・ドール」なんかは、わが愚父が常連だった縁で、私も昔のソムリエの面倒をみたことがちょっとあった。
しかし、メートル氏はすっかり忘れているようで、今は全くの他人行儀。それはそれで悲しいものだ。
そんな話はともかく、久々のタニ。
ここは変わらず割安である。
料理のレベルは高いのに、値段はフレンドリー。
師匠筋の「アラジン」よりお得感ではだいぶん上をいく。
料理4皿、デザート2皿に食後の飲み物付きで7800円は立派なものだ。

アミューズは、バターナッツのムースに、トマトのジュレをかけたもの。
カボチャの甘味とジュレの酸が、口の中でほどよく混ざり合う。

これは出色、仔牛のブーダン・ブランに牡蠣を詰めたもの。
白ブーダンだが、やはりリンゴのピュレを添えてある。
その脇の赤ワインビネガー風味の玉ねぎが、牡蠣の風味と相乗。
白ブーダンはパサつくのが多いが、これはプチュっと汁が飛ぶほどジューシー。
また食べたい、と思わせるものがあった。

こちらは、師匠もよく出すキャベツ包み。ホタテのムースとズワイガニが詰まっている。
非常にあっさりと仕上げていて、カニとホタテの甘みを楽しめる味加減。

魚料理は、アマダイのポワレ。松笠のように皮はパリパリ。ブールブランのソースも基本に忠実で焦点が合っている。

メインは、初めて食べたキンクロハジロ。白黒ツートンカラーの鴨の仲間だ。
雑食で、魚類も食べるからだろうか、クサヤっぽい香りが特徴。
茨城あたりで採れる魚食鴨と似ている。
ただ、肉質は新潟の網どり青首の方が断然上だろう。
豚の血を加えないサルミソースは、なかなかの力作。
2年以上前、「通う価値あり」と自分で書いている。
実践せねば、と反省ひとしきりな一夜となった。