たしか、冷前菜の特集で目に留まったものの、場所が場所だけに行くのがためらわれた。
だが、休みの日に一念発起。重い腰を上げて小田急線に乗って以来、今は月一で通いたい店となった。
食関連の雑誌やサイトはマメに見ている方だが、インチキばかりのグルメメディア業界では、あまり取り上げられていないようで、何とも残念だ。
なんちゃってグルメ編集者たちの眼力の乏しさは、何とかならないものだろうか。
集客には困っていないようなので、余計なお世話かもしれないが・・・。

定番のキノコのお茶とフォアグラのマカロン。
やはり季節によって味も香りも変わるのだな、と実感。
2月のは香りもほのかで、舌がとらえる味わいもシンプルであっさりしている。

ハマグリとフキノトウのベニエ。
春らしい取り合わせ。ハマグリがぷっくりとして質が良く、ミネラル感の強い白ワインとなら、何個でも食えそうな気がした。

立派な型の寒鰆の瞬間スモーク。
味の構成がとても複雑で、例えば上にちりばめたチーズのチュイルなんかは、食感のみならず、鰆の脂に呼応する役割になっている。
定番のサーモンも素晴らしいが、この鰆もお見事。

ヤリイカとキャベツの一皿。
イカの腹にはゲソとトリュフが詰まっており、それだけでも十分うまい。
が、なんとも甘いキャベツと一緒に頬張ると、ぐっと相乗する。
見た目は地味だが、素材はしっかり吟味されているのが、口の中でよく分かる。

トリュフの覆われて何だか分からないが、中はスープ仕立てのフォアグラとごぼう。
品の良いブイヨンにフォアグラの脂が溶けだし、さらにゴボウとトリュフの土のニュアンスが加味。ハマグリで感じた春から、一気に冬の山に戻った感じだが、胃の腑は良く温まった。

メイン、その1(!)
熊本だったか、あか牛のヒレと牡蠣を合わせたもの。
放牧されて育ったあか牛のヒレ肉が、絶品。最近食った中ではピカイチの肉で、ローマで食べたキアニーナ牛よりも全然上をいっていた。
これに牡蠣を乗せるというのは、クラシックな趣向か。
貝からしたたる海のミルクが、ともすれば平板になりそうなソースに複雑味を加えて効果を発揮。

なんとメインその2。
新潟の網採りの小鴨、サルミソース。
「アラジン」で食べる大きな青首も美味いが、この小鴨は皮の脂がより繊細で、程よい甘さ。
しっとりと柔らかいモモの噛み心地は、何とも言えない。
作る姿は簡単そうに見えるが、火入れは大変上手で、きれいなバラ色。
次回は一羽を独り占めしたいものだ。
いや、これだけ食わせてくれる店はなかなかない。
料金もそれなりになるが、わざわざ出かける価値がある。
春の食材でどんなものを作ってくれるのか、次回も楽しみだ。