ちょいと昼酒を飲みに、とのこのこ出かけた蕎麦屋。
下調べもほとんとせず、スマホのGPSを頼りに、超がつくほど分かりにくい自宅兼店舗へ。
「鰹」、という店名からして妙だと思った。
品書きを見て、さらに首をひねる。
魚料理が充実しているのだ。
「はじめてお越しですか?そしたら、刺身いろいろ盛り合わせでも」などと言われて、「はあ、まあ、じゃあ、それで」と応じて、出てきたのがこれだ。

鯛やヒラメの舞踊り、ならぬ鯛とホウボウの姿造り。さらには地の鯵もたっぷり。

ご立派。

見た目はすごいが、しょせんは蕎麦屋の生兵法だろう、と小馬鹿にした自分の方が馬鹿でした。
まず、一番分かりやすい鯵で鮮度を確認。これが、ムチムチの噛み応えで、味も香りも澄んでいた。
さらにホウボウも、小ぶりながら風味が良く、シコシコとした弾力。
小さ目の鯛は、脂の乗りは大したことないが、繊維はきめ細かく、不味くはない。
どれも東京の妙な寿司屋より、よっぽどマシなのであった。
それもそのはず。
後で知ったが、この店、葉山で長く魚料理店をやっている「魚寅」の分家筋らしい。

そういうことなら「鰹」という店名にも合点がいく。
そもそも、蕎麦には鰹節が欠かせないというのもあるのだろう。
客席横では、蕎麦粉をひく石臼がぐるぐる回っている。
蕎麦も本気、という姿勢の表れか。

ご自慢の胡麻豆腐も、朝イチで手作りしたという。
胡麻の風味がやさしく、舌触りもほどよいなめらかさ。

1600円ほどの天ざるの天ぷらもこだわっている様子。
キスなんかはよい揚げ具合で、腕はなかなか。

肝心の蕎麦は、「恵土」よりは劣るものの、高いレベルを目指しているのはよく分かる。
つゆは、鰹節のコクがしっかり伝わる、力強い味わい。
あれこれつまみを食って、ビール3本と日本酒3~4合飲んで、お会計は一体どうなるのかと怯えたが、驚いたことに2人で1万2千円ほど。
あの姿造りを食って、この値段なら文句は全くない。
次は夜に。そう硬く決心した。葉山で久々の発見である。