地方でハズレの店というのは滅多にないし、観光地でもそれなりの額で、一定水準以上のものが食えるのが、イタリアの良さだろう。
ただし、ローマとベネチアは例外だ。
別格の観光地だけに、そもそも値段が高いし、不真面目な店も多い。
今回のローマ滞在でも、ふらりと入った店の昼食で、質が悪く茹で加減もひどいパスタにあたって閉口させられた。
そんなローマにあって、満足度が高かったのが、スペイン広場近くの「フィアスケッテリア・ベルトランメ(Fiaschetteria Beltramme)」。
大変気立てのよい女主人が仕切っている店で、地元民と観光客が入り混じり、大変繁盛していた。

何気ない店だが、創業は1886年なんだとか。そんな老舗だとは全く感じさせないところが、またいい。

サラミ・生ハム類の盛り合わせ。
とりたててどうこういうモノではないが、量が多く、コスパが良い。
脂身ラルドがうまかった。

強く勧められたムール貝のスパゲッティ―。
日本ではなぜか小粒で気の抜けたモンサンミッシェル産が流行っているが、こういう味が鮮明で磯香がガツンとくるのを食べると、ムールも悪くないな、と思う。
ローマ風では、魚介のパスタにもペッコリーノを削るようで、自ずと食味は重くなる。

アッラ・グリーチャ。パスタはリガトーニのようで、そうではない名前だったような気がする。
このパスタ、要するにトマトなしのアマトリチャーナである。
新大陸発見までトマトは欧州に存在しなかったわけで、つまりアマトリチャーナの原型というわけだ。
味のポイントは、グアンチャーレ(豚頬肉の塩漬け)とペッコリーノ。
ベーコンとパルミジャーノでは、全く別のモノになると考えるべきか。
とにかく、濃い。赤ワインを注いだグラスを持つ手が止まらない。
我が家でも再現してみたいが、その際は脂たっぷりのグアンチャーレは必需品だろうと思い、例によってスーツケースにかなりの塊をしのばせてきた。

こちらはご自慢メインのサルティンボッカ。
バターたっぷりながら、レモンの酸味でさっぱりと食える。
見栄えは悪いが、味は素朴でまずまず。

メインもう一つは、ローマ風のポルペッテ。
言ってはなんだが、特に工夫のない肉団子トマト煮込み。
良く言えば、誰かのお宅に招かれた時に出てきそうな一皿。悪く言えば、1年後も記憶しておくのが困難な料理である。
ローマにあっては、珍しく接客がまともで、料理もワインも良心的な値段。
下手な高額店に行って冒険するくらいなら、ここで郷土料理を楽しんだ方が無難であろう。