ローマの三ツ星「ラ・ペルゴラ」 | 御食事手帖

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主に東京と湘南で食べ歩き、でも美食のためならどこへでも旅するブログ

年末年始をローマで過ごすと伝えたところ、美食家の友人は気の毒そうな顔をしてこう言った。
「なんとかフィレンツェに変えられないの?」

超のつく観光地である。
というか、観光と政治しかない街と言った方がよいか。
街の大半がローマ史のテーマパークのようなもの。
さらにはヴァチカンがある。
四季に関わらず、年がら年中、平日でも週末でも、世界中から観光客が押し寄せる。
おもてなしの必要など、一切ない。
客の方が来たくて仕方がないのだから(私を含む)。

ゆえに、街はすさむ。
誤解を恐れずいえば、接した地元民の多くが、底意地悪く不親切。
5つ星ホテルとは名ばかりで、ボロボロのガタピシのくせに凄まじく高い。
飲食業も、イチゲンの観光客相手でやっていけるから、経営努力の必要がない。

街として、どうにも好感が持てないのだ。
イタリアの他所では感じたことのない、悪い印象が堆積していった。

そんなローマで、ミシュラン三ツ星のレストランが一軒だけある。
中心街からタクシーで15分ほど。高台に建つヒルトン系ホテルの最上階にある「ラ・ペルゴラ」。

ドイツ出身の料理人(というかもはやプロデューサー)ハインツ・ベックの店だ。
目端が利いているのかいないのか、最近になって東京・丸の内に出店している。
ロイヤリティー商売だろうか。

ともかく、食の国イタリアの首都の最高峰、とされる店。アラカルトで食ってみた感想は、「な~んだ、この程度か」というのが率直なところであった。


前菜は、セロリと緑トマトのガスパチョをしいて、スパイスとスペイン生ハムのジュレをかけたロブスター。
これをもってイタリアンというかどうかは置いておくとして、料理としては文句なくおいしい。ただ、おいしく作った、という以上の何かが伝わる料理ではない。郷土色とか、素材が持つテロワールの風味とか、料理人の独自性とか、トップクラスの店がこだわる「何か」が欠落しているように感じた。


パスタはご自慢のファゴッテリ・ハインツ・ベック。
自らの名を冠したパスタだが、それほどのものだろうか。
ラビオリ風に包まれたパスタの中は、リコッタやパルミジャーノ。これらが液体化していて、噛むとプチュンと汁がほとばしる。
これも普通においしい。だが、45ユーロもとるのはいかがなものか。
この皿がシェフの到達点だとしたら、なんともはや、という嘆息を漏らさずにはいられない。


パスタもう一皿は強く勧められて、黒ゴボウとチャイブで香りづけしたタリオリーニ、アルバの白トリュフかけ。
なごりとはいえ、素晴らしい香りの白トリュフ。それ以上でもそれ以下でもない一皿。
92ユーロは、もはや暴力の域である。


メインは家畜の鳩とフォアグラをほうれん草で巻いたもの。
ジビエはメニューになく、他は仔羊、仔牛、牛肉と選択肢もほとんどない。

ほうれん草をクレピネットがわりにして、上手に包んでいるけれど、だからどうした、という印象は否めない。
フォアグラの質は悪くないし、鳩の火通しも問題ない。
でもこの料理、イタリアで出されても、ドイツで出されても、フランスで出されても、違和感がないと思う。この皿のどこにローマとかラッツィオとか、あるいは他のどこかの土地を感じれば良いのか。
いや、この店はそんなことは考えていないのかもしれない。インターナショナルな料理に、パスタを加えた構成ではあるが、イタリアンという枠は意識していないのかも。
そう考えれば、万人受けする安定したホテルダイニング、と評価できないこともない。



デザートや最後のプチフールまで、これといった隙はない。
サービスも申し分なし。

印象に残らぬ料理をのぞけば、高額支払いなりの快適さを楽しめる店ではある。
ただ、ローマでわざわざ行く必要があるか、と問われれば、答えはノーだ。