北島亭 四ツ谷 | 御食事手帖

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主に東京と湘南で食べ歩き、でも美食のためならどこへでも旅するブログ

日本人が作るフレンチの、ひとつのモデルを築き上げたお店と言えるでしょう。昨今流行のキレイな料理とは一線を画し、素材勝負を貫いているところが潔いです。「うまいもんを腹いっぱい喰いたい」と願うグルマン向けのフランス料理店です。
★★★★☆


フロリなんとかだの、レフェルどうとかだの、エスキ●みたいなお店には、あまり興味がわかない私。
このところはコートドールやアラジンのような、かつて時代の寵児、いま大ベテランのお店に通っています。
この店「北島亭」も最近2度目の訪問。
何度か食べることで、3軒の違いというか、個性というかが、ほんのちょっと分かってきました。

アラジンは「日本人にとってのフレンチらしさ」を一番体現している。
コートドールは、斉須シェフに日仏のモワチエ・モワチエみたいな面があり、料理にもそれが出ている。
北島亭は、良い意味で最も「和」を感じる。

私の印象はこんなところです。意味不明でしょうか?


さて、「七條」が弟子筋とは知らず、数日後に訪れてしまった北島亭。
師匠の実力を見せつけてもらいました。


まずはアミューズ。メロンのスープ。
前回は緑でしたが、色が変わりました。
南仏カヴァイヨンで食べたメロンの前菜を思い出します。半割にしてヴァン・ドゥー・ナチュレルを注いだだけのもの。
これはそれより手の込んだ一品ですが、良い思い出を呼び覚ましてくれます。


房州産あわびの肝ソース、黒にんにく風味。
アワビをこんなに分厚く切って、私に出してくれるのは、ここと「青華こばやし」だけです。
むっちむちのアワビの歯ごたえ、磯の風味もさることながら、たっぷりの肝ソースが素晴らしい。程よい酸味とかすかな苦み、何より凝縮されたヨード感が滋味深く、一口ごとにうなってしまいます。
こういう料理は、フランス人に真似しろと言っても無理でしょう。「日本人のフレンチ」の良さをしみじみ感じます。



この数日前も「七條」で食べた、白アスパラ、アサリのバター、スープ仕立て。
白アスパラの質が全く違うので、比べても仕方がないかもしれません。
ボルドー産の立派なアスパラは、意外に繊維も当たらず、甘さと土のミネラルを感じます。
アサリの出汁が溶け込んだスープは、とても優しい口当たりで、アスパラの持ち味に寄り添います。土と海の出会いモノですが、意外に良く合うのですね。


魚料理は、萩産の甘鯛カリカリ焼き、ブールブランソース。
他店でも良く出す定番ですね。松かさにして、もっとカリカリを強調する方が好みです。
火入れも、もっと生に近い方が良いかと。


メインは、おすすめのリブロースを避けて、牛ランプのロッシーニ風、ペリグーソース。
ロッシーニなんて、田舎の結婚式場の披露宴でしかお目にかかれないと思っていました(笑)
しかし、ここのはさすがです。
写真を見てください。皿のふちの色と肉の赤が、見事にシンクロしてますね。
絶妙の火通しで、程よく入ったサシにうまく熱が伝わっています。
この赤さだと、噛みしめた時に、血のニュアンスと肉の甘みを存分に楽しめます。
めったに頼まないベタベタ料理でしたが、ちゃんと作るとうまいもんですね。


これは唯一、七條と共通項が見られたチョコのテリーヌ。
デザートにしか修行の成果が感じられないというのも悲しい話です。

店内、他のお客さんたちも「喰うぞ」というオーラがみなぎった人たちばかりでした。
食いしん坊の中に紛れて食事をするというのは、それだけでも気分が良くなります。

冒頭にあげたベテランの店3軒は、いずれもシェフが毎日厨房に立っていますね。
吉野さんは道を誤った、ということでしょうか。
北島シェフの衰えぬ眼光を見るにつけ、いろいろ考えさせられました。