赤ピーマンのムース | 御食事手帖

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主に東京と湘南で食べ歩き、でも美食のためならどこへでも旅するブログ

味の記憶なんて、アテにならないものです。

1度食べておいしかった料理が、2度目に食べると「あれれ?」となることが良くあります。
おそらく、最初の印象が頭の中でどんどん美化され、実際以上においしかったと記憶されてしまうからでしょうね。
こういうのは心理学的に何か定説があるのでしょうか?

さて、最近何度か訪ねている「コート・ドール」。
この季節の看板料理を、アミューズで食べさせてもらいました。


赤ピーマンのムース。
この料理を初めて食べたのは、1995年のことでした。
私がパリへ引っ越す直前で、「送別会」を開いてもらったのがこの店。
「これから嫌っていうほど本場で食うのに、なぜにフランス料理屋なの?」と疑問に思う一方で、しかしまっとうなフランス料理を食べるのは、人生で初めてのことでもありました(お恥ずかしながら・・・)。

その時の前菜が、この赤ピーマンのムースだったのです。
私にとっては、フランス料理との、まさにファーストコンタクト。
いや、驚きたまげました。
「赤ピーマンって、あの赤ピーマンだろ。それが何でこんなにおいしくなるのかね?」
頭が混乱しつつ、スプーンを持つ手は止まりませんでした。

ついでに言うと、メインは牛のしっぽの赤ワイン煮。
私にとっては、その後のフランスでの食べ歩きにおいて、味の基準、物差しとなった2皿の料理でした。渡仏前に食べておいて、心底良かった、と思える体験となりました。

時は流れること20年弱。
改めて食べてみた赤ピーマンのムース。
「あれ、こんな味だったか?」と一瞬面喰いました。
まるでクリームのような乳脂の味わい。その奥から赤ピーマンの風味がそこはかとなくやってきます。記憶の中では、もっと赤ピーマンが鮮明でアタックがあったような・・・。
いやおそらくその後、類似の料理をいろいろ食べたせいで、記憶が混濁してしまったのでしょう。シェフの方が変わるとは思えませんので。

記憶とは違ったものの、やっぱりうまいもんでした。



続いてこの日食べたもの。ロワールの白アスパラ。
太いです。でも繊維はきめ細かい。根の方もシャキシャキとして、歯あたりが心地よく、筋が一切残りません。高いだけあって、素晴らしい質です。


この店で初めて食べる豚料理。
銘柄、失念しました。が、これは珍しく脂以上に身の部分がおいしい。
サシが入っているのでしょうか、ジューシーでパサつかず、肉にコクがあります。
中のピンクを残した、上手な焼き方です。
豚は圧倒的に脂が好きですが、こういうのを食べると認識を新たにします。


相変わらず、ビジュアル的にはイマドキのグルメさんたちをひき付けない、無骨そうな料理です。
しかし、北島亭もそうでしたが、この世代の料理には無駄がないですね。
余計な粉飾がないので、味の軸が鮮明に伝わってきます。
徐々に廃れつつあるようですが、残してほしい哲学だと思います。