




オーナーがサービスマンの店――。
すぐに思い出すのは、パリの「タイユバン」でしょう。
ブリナーさんが亡くなって、もう何年が経ったでしょうか。
「パリの夜の商工会議所」を多年守り続けた名物オーナー。
私にとって、初めての三ツ星レストランがこの店でした。
テーブルで「仏和料理辞書」を広げた私に、ニコニコと微笑んでくれたブリナーさん。
「フランス語でしか伝わらないニュアンスがあるから、メニューはやっぱり仏語で読めないとね。勉強、頑張って」とリラックスさせてくれたのを思い出します。
本当に居心地の良い店でした。何度通ったことか。
さて、この店が東京の「タイユバン」、とは思いませんが、オーナーが名物サービスマンである点が共通する「シュマン」。
他店を圧するワインリストを誇る点も、似ているでしょうか。
眼鏡をかけた控え目なシェフの方は、風貌が若干ブラスに似ている、といったら褒めすぎ?
そんなシェフが作る料理。
和の食材も大胆に使いつつ、フレンチの正統はあまりはずしません。
手間暇もかかっていますが、コースはかなりリーズナブルな料金設定です。
アラカルトで注文したのは、以下。

「3皿の海からの恵み 鮮魚のマリネと冬野菜のグレック 柚子の香り ローストした殻カキと岡山県産トピナンブール(菊イモ)のヴルーテ、蟹と帆立貝のラヴィオリ,トリュフの香り」
前菜三種盛り合わせ、といった感じでしょうか。華やかですね。

キクイモのブルーテのほのかな苦みが、カキと良く合っています。

ラヴィオリは、もうひとつ工夫がないと、印象が残らないかもしれません。

メインの前に出してくれた、ジビエのコンソメ。
これ、絶品でした。たまげました。
風味の凝縮感が見事。スープでありながら、肉をかみしめているような力強さ。
喉を滑り落ちるときに、野趣あふれる滋味が体中にグーッと広がっていく感じがします。
この1杯をすするためだけでも、行く価値はあります。

メインは、野鴨のサルミソース。
これが最高、とは思いませんが、少なくともひとつ前にアップした「諸菜 匠」よりは何倍も注意深く火を通しています。
この鴨は茨城産で「魚を食べている」とのこと。
なので、新潟や富山のように穀類を食べている野鴨と、全く違う風味です。
よく言われるアンチョビ臭とかくさや臭が強く出ていました。
好き嫌いは分かれるでしょうが、これもまた野鴨。私はワインしだいで、どちらも楽しめると思いました。
グルメ本などで話題になることはあまりないようですが、ちょくちょく出かけたくなるお店です。