




各種のグルメ雑誌で、相変わらず「肉」特集が続いていますね。
「究極の豚肉」だの「牛肉と仔牛」だの、似たり寄ったり、よくまあ飽きもせずやるもんです。
フランス産の牛肉が、狂牛病を理由に禁輸となったのが2001年のこと。
今年2月、ようやくのことで輸入再開となったわけですから、マンネリ・ネタ不足の食出版界としては、しばらくは欧州肉ネタでつないでいきたいところなんでしょう。
メニューのネタに困っていた飲食店も、さぞかし解禁を喜んだことでしょう。
「今日はフランスのシャロレーという牛が入荷しております」なんて、嬉々として説明している店員さんが、各地で増殖中ですね。
はっきりいって、そろそろいささか、うんざり気味です。
シャロレーは、エルメスとかヴィトンとは違います。
元々の質、保存状態、そして調理方法、それらがピタッと揃わなければ、いくら産地のブランド力に頼っても、客は満足させられません。お店の努力あっての、フランス産牛です。
さて、クラシックかつ確かな技術のフレンチに好感をもって再訪した「タニ」。
当日予約だったため、7500円のシェフお任せコースを選択。

初手は涼やか。じゃがいもとポロねぎのババロアにとうもろこしのスープをかけた冷菜。
師匠筋のアラジンも夏はババロアが定番ですね。
ここのは、甘みたっぷりのとうもろこしが食欲を刺激します。ババロアも、ムースに近い食感で、滑らかな舌触りにこれもポロねぎの甘やかな風味が心地よい。

前菜2品目は、白いかと夏野菜の温かいサラダ仕立て。
かんきつ系のドレッシングが爽やか。
ただ、イカはちょっとするめっぽいクセがあり、香りの明度がイマイチでした。
もうひとつ言うと、料理全体として平板というか、「これ」という焦点がないのが残念。

続いて、どうだ、とばかりに出てきたフォアグラのポアレ。
濃度控え目のリゾットの上に、堂々鎮座しています。
これは質の良い肝を使っているので、中の生々しさが活かされています。

魚料理は、天然真鯛。
細いというか、薄いというか、何とも頼りないポーションです。
食が細い客が多いからでしょうね。しかし、エギュイエットっぽい薄切りでは、火入れも難しいでしょう。量を多くしたくないなら、いっそ魚はスキップする構成にした方が良いかと。
ただ、師匠も昔「魚は外せない」と言っていたので、その教えを守っているのかもしれません。

メインはロニョン。仔牛の腎臓です。
「フランス産のロニョン・ド・ヴォーが入荷しているのですが、食べられますか?」
食前にマダムが質問してきました。
私にとっては「太陽は東から昇るのですが、ご存知ですか?」と聞かれたようなものです。
久々に仏産のを食べましたが、鮮度なかなか。脂の付きも悪くありません。
さらに、他店では見たことがないモロヘイヤのソースというのも、夏向きでさっぱりしており、オリジナリティーを感じます。添えたジロールも良い脇役。
ネバネバと腎臓。面白い初体験でした。

デザートは、薄く焼いたタルトにいちじく。
リンゴではないところが、心意気でしょうか。
いちじくの官能的な甘さを活かすなら、タルトはもっとバターと塩がきいていても良いかな、と思います。
お任せコースも悪くありませんが、シェフと事前相談で練り上げるムニュ・スペシャルは、さらに力を入れてくれることでしょう。
クラシックな料理が好きな方は、試してみてはいかがでしょうか。