




ここのところ、虎ノ門界隈で店の開拓に励んでおりましたが、探せばあるもんですね、良いお店。
神谷町の駅から遠くないものの、ちょっと奥まった一角。
周囲は住宅街ともビジネス街ともいえない寂しい場所に、ぽつんとお店があります。
カウンターとテーブルがいくつかの狭い店内。
パリ右岸の裏通りに点在する安旨ビストロの風情が漂います。
カウンター内には、店主が汗をかきかき料理する姿が。
一心不乱に仕事をする様子を見ているのは、何とも気持ちがいいものです。
メニューは、アミューズ、前菜、メインというカテゴリーに分けられています。
プリフィックスコース4500円は、この3種から1品ずつ選べて、なおかつデザートと食後のお茶がつきます。
追加料金、一切なし。全メニューから選べるなんて、実に気前のいいお店です。
フォアグラやオマールのビスクなど、高単価な料理にひかれつつも、初回はお店の看板料理を試してみることに。


アミューズから2品。鴨と豚のリエットとタコのトマト煮タブレ。
リエットは、肉の繊維をしっかり残してあり、脂少なめ。万人受けする仕上がりです。
タコは、上手に柔らかく煮上げており、ぴりりとエスプレットが効いていて、食欲をそそります。トマト濃厚で辛みをきかせたタブレというのは初めて食べましたが、シェフはなかなか研究熱心な方とお見受けしました。


前菜は、天使のエビとアボカドのサラダ、それと小松菜と鳥胸肉のキッシュ。
サラダはオニオンがきいたドレッシングが良い味。
ご自慢のキッシュも良くできています。
生地がパート・ブリゼではなく、フイユテなのが珍しい。
薄い層になって、サクサクです。
これに、たっぷりのアパレイユが注がれ、むっちりと良い具合に加熱されています。
本場のキッシュを食べ慣れた向きなら、きちんと評価できるでしょう。


メインは、ビストロの定番、ステーク・フリットと看板料理・クスクス・ロワイヤル。
牛はモモでしょうか。味のある赤身です。フリットには、たぶん白トリュフ塩を振りかけてますね。
さて、クライマックスのクスクス。
仔羊、メルゲーズ、ウズラの肉団子、それに夏野菜がたっぷり。
煮汁がすばらしい。コクがあって、クミンなどの香辛料がちゃんと効いています。
マグレブとパリ19区が同時に思い浮かぶ香りと味。
シノワ・グループの銀座「ヌガ」が出すなんちゃってクスクスとは比べものになりません。

ありがたいことに、スムールはおかわりさせてくれます。
アリッサもつけ放題。涙がちょちょぎれます。
ここまで本格的にやって、よくも4500円で許してくれるもんですね。


さらにデザート。
キャラメルのアイスが大変結構。
ゲラントの塩を上手に使っています。
ご自慢のクレーム・ブリュレもなめらかなのに、濃い味わい。
かなり上手に焼いている自家製パンもつきますから、普通の人ならお腹がはちきれそうになるでしょう。
旨いもんを安く食わせる、ビストロの本義をわきまえたシェフの心意気に拍手です。
ご主人はカリフォルニアのピノ・ノワールがお好きだとか。
カリ・ピノ愛好家に悪い人はいません。ファンになりました。
久々の新規開拓大成功。
迷いなく、通います。