フランスワインだけの「一神教」から脱退し、領域を広げることができたのは、本当に幸いでした。
そんな私が言うのも何ですが、日本人のワイン党は、なかなかフランス原理主義から抜け出すことができないようですね。
まず、カリフォルニアというだけで「格下」と感じてしまう人が多い。
バカげた話です。
「パリ・テイスティング事件」を筆頭に、ブラインド・テイスティングでは、何度も仏産グランヴァンを蹴散らしています。
格下扱いには、事実も根拠もありません。
それでも、有名デパートの酒売り場は、今もフランスが中心。
いっぱしのワイン通を気取る人でも、今なお、不当にバカ高いボルドーに大枚をはたいて買い漁っているのです。お気の毒を通り越して、愚かと言うより他ありません。
カリフォルニアワインの側が抱える問題もあります。
一番は、早飲みされすぎていることでしょうか。
飲み頃を迎え、熟成したワインは、ネットでもなかなか見つかりません。
真価を発揮する前に飲まれてしまった挙げ句、「パワフルだけど精妙さが足りない」などと酷評されるのは、本当に不幸な話です。
さて、コツコツ通っている「ドゥエリーニュ」での持ち込みワイン研究。
今回は、これを飲みました。

ベタベタの銘柄。
ロバート・モンダヴィのカベルネ・ソービニヨン、レゼルブ1990年です。
超有名な大ワイナリーですから、日本でもモンダヴィのワインはどこでも買えますね。
しかし、20年を経た古酒というのは、そうお目にかかれません。
コルクはかなりもろくなっていたようで、抜栓はご苦労なさった様子。
しかし、中身はちゃんと熟成していました。
まず、カベルネ特有の青っぽい植物性の香り。
続いて、レザーやジビエ肉に加えてボワゼな芳香が印象的。
一口飲んで、ニンマリ。全然くたびれてません。
なめらかになったタンニンと、慎みある甘み。バランスを保って、いびつなところがありません。
10年前もおいしかったのでしょうが、今飲んでも納得のいく味わいです。

この日の料理は、豪華版ぞろい。
前菜は、いろいろ魚介が入ったトッピナンブール(キク芋)のムース。
上のジュレは、ゼラチンを入れず、鯛の骨の出汁でつないだもの。
見た目は地味ですが、カナダ産のオマールに、北海道のうに、ほたてが盛り込まれた、贅沢な前菜です。

2品目は、白子のムニエル。
ケッパーやエシャロットが効いたブールノワゼットがなかなか良く出来ています。
12月は、ルカンケでも同様の料理を食べましたが、こちらの方がやさしい味わい。
下に敷いたブランダードは、生のタラを用いてますが、白子が相手だとMorueの方が釣り合うと思います。

メインは、鹿のロッシーニ。
まさかの、クリスマス定番料理です。
しかし、作り置きではないので、他店とは別物。
まず、フォアグラがめちゃめちゃ大きい。トリュフも、まあケチってはいない。
原価率は高いでしょうが、俺のフレンチとは似て非なるクオリティーです。
この蝦夷鹿とモンダヴィは、なかなか良く合います。
そんなに主張が激しい肉ではないので、円熟味のあるワインでもバランスがとれます。
欲を言えば、もう少し酸がある飲み口でも良かったかと。
ちなみに、このモンダヴィは100ドル。輸送料と関税を合わせても、1万円を切りました。
20年くらいは平気で熟成するのが分かったので、他のヴィンテージで出物があれば狙いたいものです。