うえ村 荒木町 | 御食事手帖

御食事手帖

主に東京と湘南で食べ歩き、でも美食のためならどこへでも旅するブログ

久々の訪問でしたが、料理は停滞することなく、着実に前進していました。寒い冬にぴったりの温かい料理が、どれも秀逸。京都での修業を活かしつつ、京料理の常識にこだわらない柔軟さが魅力です。ただ、料金は、今や高額店の部類に入ってしまいました。
★★★★☆



随分、間隔があいての訪問。
しかし、美人助手と2人で切り盛りするスタイルは相変わらず。
手際よく、美味いものが次々に出てきました。


初手は、ふぐの白子入りの玉地蒸し。
茶わん蒸しに、白子を出汁でのばしたものをかけています。
余計な具材はなし。それゆえ、雑味もない。
冷えきった体が弛緩していく抜群の美味さです。


2品目は、北海道のうに。さらに、あんきも。
どちらも虚飾なし。シンプルです。


造りは、静岡県舞坂港の鯛、アイルランド産のクロマグロ中トロ、それにナガスクジラの尾の身。
遠州灘で採れたのでしょうか。
舞阪の鯛には驚きました。歯ごたえはありつつ、筋張らない身質。甘味のある脂がしっとりのっていました。淡路と区別はつきません。
尾の身は、ピンク色の美しい肉に、細かくきれいなサシが入った極上物。
口に入れると、抵抗なく噛みきれ、ねっとりと溶け広がっていきます。
動物のようで、魚のようでもある脂の風味が何とも言えません。


お椀は、揚げた雲子に聖護院かぶらのすり流しを入れたもの。
初めて食べましたが、これもお見事。
揚げたて熱々のマダラの白子に、カブ特有のほろ苦さと甘みがまとわりついて、双方の食材が相乗効果で高まっていきます。
出汁の加減も、濃すぎず淡すぎず。
こういうお椀が身近で食えるなら、京都まで出かける必要はないでしょう。
体が芯から温まると同時に、脳の奥で味覚が揺さぶられる味わいでした。


定番の「うになす」も登場。
歳末でうにが高いのに、たっぷりのせてくれました。

この日の白眉は、海老芋と鴨ダンゴと菊菜の西京煮。
白みそで蒸し煮にすること3時間。
甘味をフルに引き出された海老芋が、口の中で白みそと混ざり、極上の「マッシュポテト」となって食道を滑り落ちていきます。苦味のきいた菊菜のアクセントも上手。
塩気、甘味、苦味、旨味がバランスよく配置された、完成度の高い料理です。
出汁の物がこれだけ続くと、冬は本当にうれしいですね。

揚げ物は、ゴージャスなポーションのふぐのから揚げ。

止めには、越前のせいこ蟹、ジュレ状のポン酢かけ。

そして、締めのご飯にすっぽん雑炊が登場。
これは、むちゃくちゃ贅沢です。
半端ない量のえんぺらを投入。濃密な出汁は、コラーゲンの塊のようです。
見た目は雑炊ですが、すっぽんを丸かじりしているような気分になるパンチ力。
最後も、贅沢極まりない汁もので締めてくれました。


これだけの食材を使った料理ですから、安くすむわけはありません。
しかし、冬場は奮発する価値があります。
春までに、もう一回は行きたいものです。