幻と化すシャンパーニュ | 御食事手帖

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主に東京と湘南で食べ歩き、でも美食のためならどこへでも旅するブログ

あなたはどんな時にシャンパーニュを開けますか?

この問いには、こう答えるとしましょう。
「2つの場合に限られます。1つは誕生日。もう1つは誕生日以外の日」。

最近、なんのかんのと理由をつけては飲んでおりますが、昨夜は特別な1本を開けました。
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アラン・ロベールの「ル・メニル」1989年。マグナムです。

何が特別かというと、この造り手はすでに本拠地のメニル・シュール・オジェ村からいなくなり、シャンパーニュ造りを辞めてしまっているのです。
つまり、瓶詰して出荷済みのものと、残りのストック分が飲み尽くされたら、もうおしまい。
ネット酒屋を探してみても、もはや見つかるものではありません。

不味ければ、消えても構いません。
しかし、ここのブラン・ド・ブランは、メニルで造られるシャンパーニュの中でも、五指に入る名品と評価されているのです。一部のマニアの間では、廃業を惜しむ声がたえません。


私にとっては、最初にして、たぶん最後のアラン・ロベール。
心して飲みました。

グラスは、大き目の白ワイン用から始めて、最後はブルゴーニュ用のバルーン型を使用。
温度は10度でスタートしましたが、途中から12度くらいまで上げました。

見た目は、茶が入り始めた熟成感のある色合い。脚が長いです。

最初に注いだ時の香りは、アカシアの蜂蜜。むんときます。白系の花々も。
次いで、ヴィエノワーズリーの香ばしさとバターの風合い。キャラメリゼしたナッツなど。
終盤は、圧倒的なきのこ。干したポルチーニの戻し汁や白トリュフのニュアンスです。

穏やかな酸味。柔らかな酸化具合です。口の中で転がしてもトゲのない丸さ。調和のとれたワインです。そう、わずかに泡のある、優れた白ワイン。

前にも書きましたが、私は長らくシャンパーニュをバカにしていました。
自分の無知のせいで失った時間の重さをひしひしと感じています。

今、この歳になって、ようやくヴィンテージシャンパーニュの奥深い世界を垣間見ました。
こんなワインとまた出会いたい。でも、アラン・ロベールは遠く彼方へ消えてしまいました。
これをもって「知らなければよかった」と思うのはネガティブにすぎるでしょう。
一会でも叶ったことに、喜びを感じずにはいられません。
秘蔵の1本を譲ってくださった方に、心から感謝します。

追記:飲み残した四分の一ほどを、次の日の昼に飲みました。
泡はほとんど消えていましたが、その分、白ワインとしての素晴らしさ、その全容が浮かびあがりました。良く熟成し、複雑でコクのあるそれは、ブルゴーニュのトップクラスに引けをとるものではありません。
全く恐れ入りました。