アラジンでシャンパーニュ | 御食事手帖

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主に東京と湘南で食べ歩き、でも美食のためならどこへでも旅するブログ

食の殉死者。

60歳で早世した辻静雄を、こう呼ぶ人がいます。
彼の半生を描いた「美味礼讃」(海老沢泰久著)を読むと、なるほどその通り、と合点がいきます。
日本にフランス料理を伝えた真の功労者。
私は畏怖と「If(もし)」の念を抱かずにはいられません。

もし、辻静雄が長生きしていたら。
我が国の料理教育界は、もう一つ上のレベルに達していたでしょう。

もし、辻静雄が下戸でなかったなら。
彼の著作は、さらに深みと広がりを増していたでしょう。
あれほどの美食家が、ワインを飲めなかった。天は二物を与えず、の典型例です。

料理人にも、下戸は結構います。
飲めなくてよい、と主張する人も少なくありません。
しかし、フランス料理の場合、ワインとの相関関係を無視するのは現実的ではないでしょう。
客の立場を考えるなら、ワインへの理解は避けて通れません。

シャンパーニュを飲む時は、シャンパーニュ好きの料理人の店へ行くにかぎります。
広尾「アラジン」のオーナーシェフは、自ら現地へ赴き、1度に40軒以上の生産者を訪ね回るほどの酔狂人だそうで。
こういう人の料理は、信用できます。

前述のアラン・ロベールに合わせて、コース料理を構成してもらいました。


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夏場の定番料理でしょうか。カリフラワーのムースです。
とても軽い仕上がり。ムースは、もっとカリフラワーの風味が強くてもよいかも。
ただ、残暑の夏の夜、最初に口にするには悪くない料理です。


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前菜2品目。ホタテ貝とセップのキャベツ包み蒸し。
キャベツで包む料理の白眉といえば、サンドランスのキャベツのフォアグラ包みでしょう。
ただ、これも悪くありません。
熟成したシャンパーニュにも、きのこの香りが立ち込めていますから、セップは狙いどおり。
甘やかなホタテと、枝豆やトウモロコシのアクセントも、響き合っています。

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カリカリに焼いたトリップの料理。
フォンで茹でた後に焼き上げていますから、外はカリッと、中はもっちり。
ほのかな臓物の香りは、ワインの熟成香に通じるものがあり、これも良い相性。

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肉料理に見えますが、違います。
茄子とヒラメのシャルロット仕立て。バルサミコとタップナードのソースです。
やや焦がし目の茄子の皮の苦みが、不思議とシャンパーニュにぴったり。バルサミコだけでは、ワインと正面衝突しそうですが、タップナードが橋渡し役となってバランスを取っています。
ほろほろとくず折れるようなヒラメは、控えめに、しかし凛として存在感を示しています。

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メインはイタリア産の仔ウサギ。季節野菜とキノコを添えています。
腹周りの肉が、シコシコとして、味があります。
これを食べるころには、すでに白トリュフなどの香りが立ち込めたシャンパーニュ。
料理とはどんぴしゃです。
軽いジュのソースは、もう少し主張してもよいかも。

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デザートは2品。

充実のシャンパーニュ用お任せコース。1万円ポッキリです。
「俺のフレンチ」も結構ですが、ここの高クオリティー・高CPはもっと評価されるべきでしょう。

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酒飲みが造る料理で、カリスマが造るシャンパーニュをすする。
悦楽の一夜を、生涯忘れることはないでしょう。