




かつての華板さんが独立して「はな邑」を開店したのは何年前でしょうか。
その頃以来の訪問です。
ミシュランとともに世俗化の一途をたどり、「もはや寄り付く必要はない」と思い込んでおりました。
しかし、京都での予定が変更になって、急遽ヒマになったお昼時。
電話をかけまくりましたが、どこも予約で一杯で途方に暮れていたところ、「11時半入店ならかましまへんえ」との返答をくれたのが、菊乃井木屋町店。
はっきり言って、全然期待してませんでした。
連休の書き入れ時に、急な予約で入れるなんて、さぞかし堕落したんだろうな、と。
カウンターに座って、まず気になるのが、鼻水すすりかげんの板長。風邪気味でしょうか。京都的横柄オーラが漂います。
ただ、隣の2番手がさばいている鯛は、実に美味そうだったので、気を取り直して食べ始めました。
まず最初は、赤飯の蒸し物。湯葉とべっこう餡をかけてもの。
高級食材とかは使ってませんが、これが結構しみじみおいしい。冷えきった心が溶けていく感じ。
続く前菜は、おせち風。ごまめ、黒豆、子持ち昆布と、もう今更食べたくないものが出てきました。
ただ、唯一美味かったのが、小川からすみ。
からすみをイカで巻いて、糟に1週間漬けたものです。飴色に漬かったイカがねっとりして、からすみと良く合います。これはまた食べたい。
造りは、鯛と瀬戸内の紋甲イカ。
店の力でしょうね。明石の鯛は、さすがに良いのを仕入れています。
噛むと、新鮮な卵黄を飲んだ時のような風味が沸いてきます。
ムチムチとした歯ごたえもたまりません。ありがたいことに、大き目のが4切れもついてます。
これで一挙に好印象となりました。
ただ、ついでのように出てきたコシビの辛み大根ポン酢かけは、ごく普通レベルでした。
造りに続いては、ユリ根饅頭。
これが、意外にもうまかった。
炊いてミンチにしたウズラを、こしたユリ根でくるんで揚げたものに、黒トリュフ入りの餡をかけて蒸しあげてます。
和食でトリュフなどを使う場合、多くがはったりで意図不明なのですが、この料理では意外にも意味と効果が明確でした。
次いで、1人用のコンロが登場。
ぶりシャブです。
ところがここのは一工夫。大根と京人参が入った粕汁でしゃぶしゃぶするのです。
たっぷりの九条ねぎを入れて、煮立ったところでブリをくぐらせ、ほんの10秒ほどでネギと一緒にいただきます。
粕の香りが、ブリの臭みを取り去り、ネギが青魚の風味を活かします。
これ、絶対マネしたくなります。
ご飯は、炊き立てのアナゴ飯。
ご飯自体はまあまあですが、付いてきた白みその汁が大変おいしい。
菜の花と小芋と小豆が入っているのですが、品のいい甘さが何ともいえません。
と、ここまで書きましたが、このコースの間、体は何度温まったでしょうか?
赤飯、ユリ根饅頭、ブリシャブ(粕汁はもちろん全部のみました)、白みそ汁。
普通のお椀がない分、あの手この手で汁ものを楽しませてくれました。
冬の京都の料理は、とかく単調になりがちですが、このコースは良く構成されていると感じました。
デザートは、きんかんムースと桂花陳酒ジュレにフルーツが入ったもの。
これも無難においしい。
アナゴご飯の残りは折詰にしてもらいました。
これで7000円ですから、コストは納得です。
超有名世俗ミシュラン御用達店ではありますが、しかしそういうイメージには目をつぶって食べると、料金なりの満足は得られるでしょう。
強くおすすめはしませんが、他に予約が取れないときは、一考するのもよいでしょう。