朝、ゴミ袋を裏玄関に出した。
(我慢できなさそうだな)
3袋目をだしたところである。
トイレに行きたくなった。
まずは庫裏の中から裏玄関に出す。
そこから、ゴミ置き場まで一気に持っていく。
いつもその手順でゴミ出しをしている。
3分後、再び裏玄関に戻る。
(やられた)
ゴミが散乱していた。
油断してしまった。
これが初めてではない。
何度も同じ失敗をしている。
情けない。
カラスに狙われたのだ。
(も~、面倒かけないでよ)
愚痴をこぼしても何も変らない。
そんなことはわかっている。
しかし、言わずにはいられない。
新しい袋を持ってくる。
散乱したゴミをかたづける。
後始末をしていると、昔の記憶がよみがえってきた。
いまから、45年前である。
5才のときだ。
母と2人で恵比寿に行った。
母の友人が住んでいたのだ。
細かい経緯は忘れた。
だが、とにかく3人で友人の家の近くの公園に向かった。
そこには、高さ50センチ、幅30センチ、長さ10メートルくらいの遊具があった。
低い壁のような形状だ。
私は、その上を歩いて遊んでいた。
母と友人は少し離れたベンチに座っていた。
「危ない!」
「逃げなさい!」
まもなく、不意に母と友人が大声を出した。
カラスが急降下してきたのだ。
狙われてしまったようだ。
攻撃してくる意思が感じられた。
必死で走った。
こちらが何かをしたわけではない。
おそらく子育てをしていたのであろう。
知らぬ間に巣に近づいていたのだと考えられる。
今、振り返ってみればそういうことになる。
幸いにも逃げ切れることができた。
つつかれずに済んだ。
それにしても怖かった。
つい昨春も同じように追いかけられた。
羽田空港の近くの公園を散歩していたときだった。
生い茂っている木々のなかから急降下してきた。
(子育ての時期だ)
毛の無い頭である。
つつかれたら傷だらけになってしまう。
(もう、やめて~)
再び全力で走った。
環境省は自然共生をうたっている。
にもかかわらず、こちらはカラスだけでもてんてこ舞いだ。
都会は管理制御されている。
私は、その生活に慣れすぎてしまっている。
修行がたりていないようである。
お釈迦さまのお言葉です。
『正しい行為と明知と教え、戒しめと最上の生活、―人々はこれによって浄められる。氏姓や財産によって浄められるのではない。それ故に賢明なる人は、自分のためになることを観て、真理を正しく弁別思考せよ。このようにしてこそ、人は浄められる』
【岩波文庫 ブッダ神々との対話 中村元先生訳P75】
ありがとうございました。