勤めているのは小さな町寺である。
とはいえ、1人で管理をするとなれば広い。
寺の仕事は一掃除二勤行である。
とにかく掃除は難儀である。
墓所もそうだが、建物も頻繁に掃除をすることとなる。
8年ぶりにお参りにいらした女性があった。
お住まいは東北である。
また、一連の感染症も続いている。
ご供養の期間が空くことになる。
「久しぶりに仏さまを拝めました」
法要が終わると、安堵の表情でおっしゃった。
「そう言えば、お堂を建替えてから何年経つ?」
お話をしているうちに質問をうけた。
「11年です」
指折り数えて返答する。
「どうやってお掃除しているの?」
女性は辺りをみまわしておられる。
(うわぁ。手抜かりがあったか)
冷や汗がでる。
「まずは、窓を全開にします。それから、仏天蓋(ぶってんがい)の埃を落とします」
手順を簡単に説明する。
仏天蓋とは仏さまの頭上に飾られている傘状の覆いである。
次に本尊さまの埃を払う。
高いところから順番に掃除していく。
続いて、須弥壇(しゅみだん)、位牌壇へと進む。
須弥壇は、本尊さまを安置するところである。
その後、欄間から障子へとハタキをかけていく。
ハタキの最後は、大鏧(だいきん)、木魚、経机となる。
ここでしばらく間をおく。
換気の時間をとるのだ。
5分程したら窓を閉める。
そうして仕上げに掃除機をかける。
約90分間である。
「前に来たときと同じように綺麗ね」
(えっ)
思わぬ感想に驚いた。
大きな声では言えないが、なんといっても私は横着者である。
念入りな掃除などできない。
そこで、こまめに行うことをこころがけている。
都度の掃除では、サッとはたきをかける。
だが、回数を増やすことで、偶発的に毎度違うところにハタキが当たる。
こうして、一ヶ月くらいで全体に行き渡らせる。
そんな小賢しいことを考えている。
「綺麗にする秘訣はなに?」
恐れ多い問いである。
「お客さまがいらっしゃるので、仕方がなく……」
相変わらず頭がない。
本音を述べてしまった。
昔から、追い込まれなければ気を入れられない。
「それは、そうよね」
女性は笑って納得して下さった。
お釈迦様のお言葉です。
『善からぬこと、己れのためにならぬことは、なし易い。ためになること、善いことは、実に極めてなし難い』
【岩波文庫 ブッダの真理のことば・感興のことば 中村元先生訳P33】
ありがとうございました。