真夏の墓地掃除はそれなりに厳しい。
なげいたところで仕方がないのはわかっている。
寺勤めの身なのである。
汗だくになりながら落ち葉を掃く。
案外、夏も葉が落ちる。
暑さは木々にもこたえるのであろう。
乗り切るための対策として葉を落とすようだ。
(ちょっと休憩するか)
他の季節よりも休む回数が増える。
石の椅子にこしかけて、水を飲みながら一息つく。
(今年は多いな)
地面にばかり向けられて意識が上方にも広がる。
蝉の鳴き声がいつになく響いていた。
(そうだ植木屋さんに連絡するんだった)
掃除中、糞をみつけた。
桜の木につく毛虫のものだ。
名前はモンクロシャチホコである。
蛾の幼虫だ。
大きくなると五センチくらいになる。
「毒はないよ」
以前、植木屋さんから説明された。
その点ではお参りの方に害が及ぶことはない。
しかし、見た目が……。
だから、これ以上寄り付かないように対処してもらうこととなる。
(これも出てきたか)
ツマグロヒョウモン、つまり蝶の幼虫である。
体は黒く、中央横長にオレンジ色の筋がある。
こちらは毛がない。
だからイモムシである。
毒はないそうだが、やはり外観が……。
卒塔婆に目をやるとトンボがとまっていた。
青色っぽい尾だった。
シオカラトンボであろう。
寺の近くに大きな池や沼地はない。
すくなくとも2キロ程は離れている。
(ここまでとんでくるのだろうか)
小さな体なのに驚くべき持久力があるようだ。
都会にはビルが建ち並ぶ。
管理され制御されている。
そんな中、寺社には今でも土がある。
わずかながらにも自然が残っている。
それは、現代の都会に対して、寺社の果たせる大切な役割の一つなのではなかろうか。
諸法無我。
そういえば、夏に墓参りに来た子ども達は、蝉の抜け殻をよろこんで持ち帰る。
とてもよい表情をしている。
第三代天台座主・慈覚大師円仁さまのお言葉です。
『舶は波に翻弄されて漂流し、東から波が来れば、船は西へ傾き、西から波が来れば船は東へ傾く。波が船上を何度も洗い流す。船上の人々はただひたすら仏神の加護を頼むしかなかった。どうしたら良いか、まったく思い浮かばない。遣唐大使から水手船頭に至るまで、みんな裸になって、褌(ふんどし)を締め直した。船は座礁して動かない』
【出典「入唐求法巡礼行記」巻一 枻出版 「名僧のことば」 正木明先生・大角修先生著P76】
ありがとうございました。