東京駅に行った。
先輩に書類を届けるためである。
八重洲中央口にて渡すことになった。
夕方、五時頃だった。
近くの東京都八重洲駐車場に車をとめる。
仕事終わりの時間だからであろうか。
駅へ向かう道は沢山の人が歩いていた。
しばらくすると、駅へと続く地下道の入口をみつけた。
(こっちの方が空いているかも)
そう考え、早速階段を降りた。
ところが……。
お勤め、出張、旅行、買い物などであろう。
多くの人が行き交っていた。
中央口に向けて人の間を縫うように進む。
「お待たせしてしまいましたか」
変な汗をかきながら、ようやくたどりついた。
「いや、いま着いたところだよ。ありがとう」
先輩に書類を渡す。
「ごめんね。今日はここで」
お忙しいようで、すぐに別れることとなった。
(助かった)
失礼かもしれない。
しかしながら、救われたと思った。
溢れんばかりの人の中にいたため、完全に人酔いしていたのだ。
出来るだけ早くこの場を離れたい。
(地下道はやめよう)
帰りは地上を歩いて駐車場へ向かった。
「駐車券をお入れ下さい」
出口にて精算機に指示された。
券を入れる。
が、お金の投入口がしまっている。
(おかしい)
後ろには車が並んでいる。
焦る。
取り消しボタンを押す。
しかし、何の変化もない。
ますます焦る。
(あれっ?)
ところが前方をみるとバーがあがっていた。
出られるようである。
不思議である。
あれこれ考えた。
(そうか)
入口には「最初の30分は無料」と記されていた。
人酔いにより、すっかり忘れていた。
無事に駐車場を出て帰路につく。
はずだった……。
(うわっ)
15分くらいして気がついた。
帰るのは品川方面である。
ところが走っていたのは秋葉原付近だったのだ。
(よく通る道なのに)
とりあえず路肩に車をとめ自販機でコーヒーを買った。
世間の人たちは、多勢の中で多岐にわたることを機敏にこなしている。
それなのに、こちらはすぐに人酔いだ。
確かに寺の仕事は一掃除、二勤行である。
世間さまよりは人との距離がある。
(だとしても、……情けない)
心身の混乱を治めつつも、しばらくうなだれてしまった。
お釈迦さまの御弟子さまのお言葉です。
『白蓮華が、水の中に生じて成長するが、水に汚されることなく、芳香あり、麗しいように、ブッダは世間に生まれ、世間で暮らしているが、しかも世間に汚されることがない』
【岩波文庫 仏弟子の告白 中村元先生訳P148】
ありがとうございました。