東京駅にて | 「ゆるりと仏教」いも掘り坊主の与太話

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「念死念仏 常途用心」
仏さまの御教えを、拙僧のエッセイとともに紹介しています。
ほとんど与太話(^_^;)ですが、法話らしきものも書いています。
つたない文章ですが、笑ってもらえたり、うなずいてもらえたりしたら嬉しいです。
毎週水曜日に更新しています。

東京駅に行った。

 

先輩に書類を届けるためである。

 

八重洲中央口にて渡すことになった。

 

夕方、五時頃だった。

 

近くの東京都八重洲駐車場に車をとめる。

 

仕事終わりの時間だからであろうか。

 

駅へ向かう道は沢山の人が歩いていた。

 

しばらくすると、駅へと続く地下道の入口をみつけた。

 

(こっちの方が空いているかも)

 

そう考え、早速階段を降りた。

 

ところが……。

 

お勤め、出張、旅行、買い物などであろう。

 

多くの人が行き交っていた。

 

中央口に向けて人の間を縫うように進む。

 

「お待たせしてしまいましたか」

 

変な汗をかきながら、ようやくたどりついた。

 

「いや、いま着いたところだよ。ありがとう」

 

先輩に書類を渡す。

 

「ごめんね。今日はここで」

 

お忙しいようで、すぐに別れることとなった。

 

(助かった)

 

失礼かもしれない。

 

しかしながら、救われたと思った。

 

溢れんばかりの人の中にいたため、完全に人酔いしていたのだ。

 

出来るだけ早くこの場を離れたい。

 

(地下道はやめよう)

 

帰りは地上を歩いて駐車場へ向かった。

 

「駐車券をお入れ下さい」

 

出口にて精算機に指示された。

 

券を入れる。

 

が、お金の投入口がしまっている。

 

(おかしい)

 

後ろには車が並んでいる。

 

焦る。

 

取り消しボタンを押す。

 

しかし、何の変化もない。

 

ますます焦る。

 

(あれっ?)

 

ところが前方をみるとバーがあがっていた。

 

出られるようである。

 

不思議である。

 

あれこれ考えた。

 

(そうか)

 

入口には「最初の30分は無料」と記されていた。

 

人酔いにより、すっかり忘れていた。

 

無事に駐車場を出て帰路につく。


はずだった……。

 

(うわっ)

 

15分くらいして気がついた。

  

帰るのは品川方面である。


ところが走っていたのは秋葉原付近だったのだ。

 

(よく通る道なのに)

 

とりあえず路肩に車をとめ自販機でコーヒーを買った。

 

世間の人たちは、多勢の中で多岐にわたることを機敏にこなしている。

 

それなのに、こちらはすぐに人酔いだ。

 

確かに寺の仕事は一掃除、二勤行である。

 

世間さまよりは人との距離がある。

 

(だとしても、……情けない)

 

心身の混乱を治めつつも、しばらくうなだれてしまった。

 

 

お釈迦さまの御弟子さまのお言葉です。

 

『白蓮華が、水の中に生じて成長するが、水に汚されることなく、芳香あり、麗しいように、ブッダは世間に生まれ、世間で暮らしているが、しかも世間に汚されることがない』

 

【岩波文庫 仏弟子の告白 中村元先生訳P148】

 

ありがとうございました。