落胆 | 「ゆるりと仏教」いも掘り坊主の与太話

「ゆるりと仏教」いも掘り坊主の与太話

「念死念仏 常途用心」
仏さまの御教えを、拙僧のエッセイとともに紹介しています。
ほとんど与太話(^_^;)ですが、法話らしきものも書いています。
つたない文章ですが、笑ってもらえたり、うなずいてもらえたりしたら嬉しいです。
毎週水曜日に更新しています。

火葬場の待合室でのことだ。

 

御年配の女性が話しかけて下さった。

 

「お寺さんの近くの桜の様子はどうですか」

 

柔らかい笑顔だった。

 

「えっ?桜ですか。まだだと……」

 

たしかにその季節になると境内には山桜が咲く。

 

横の通りでも染井吉野の花が溢れんばかりとなる。

 

しかし、今は一月である。

 

さすがに早すぎる話だ。

 

「そうですか。もう咲いていると思うんですけれどもね」

 

ちょっと不思議そうな表情をされた。

 

数日後。

 

たまたま、近くの裏道を歩いた。

 

「あれっ」

 

ピンク色の花が咲いていた。

 

札にはジュウガツザクラと書かれている。

 

「今まで気がつかなかったなんて」

 

女性のおっしゃる通りであった。

 

自分の感性の鈍さに落胆した。

 

 

冬至からひと月近く過ぎた。

 

しかし、どうもおかしい。

 

このところ随分と日が長くなったように感じる。

 

冬至は一年で最も昼間が短い日である。

 

したがって、日の入りも一番早いはずだ。

 

もちろん、明るい時間が次第に増えてくるのはわかる。

 

しかし、そのスピードが私の頭の中の計算と合わない。

 

「ひょっとすると」

 

調べてみると、面白いことがわかった。

 

冬至は、たしかに昼間の時間が最短である。

 

ただし、太陽が沈むのは十二月上旬が一番早いそうなのだ。

 

「やっぱりな」

 

少々自分の感覚のするどさにほくそ笑む。

 

ところが……。

 

日の出の時刻が最も遅いのも冬至ではないらしい。

 

「朝はボーッとしているから気がつけなかった……」

 

お正月が一番遅いそうだ。

 

再び自分の感性の鈍さに落胆した。

 

 

中学生が演奏する吹奏楽をきいた。

 

舞台に出てきた子たちは、あどけない表情だった。

 

各自、それとなく席についていく。

 

それぞれ、楽器の準備を始める。

 

まもなく、指揮をする先生が登場した。

 

「バッ」

 

舞台の生徒たちは一斉に立ち上がった。

 

一糸乱れぬ動きだった。

 

つづいて先生の指示で演奏の構えをする。

 

「すごい!」

 

初めの音が響くなり身震いした。

 

指揮の腕が動いた瞬間、ピタリと演奏が始まったのだ。

 

全くよどみながない。

 

上手な子たちなのだとはきいていた。

 

しかし、中学生である。

 

「まさか」

 

ここまで素晴らしいとは想像していなかった。

 

演奏後、おもわず立ち上がって拍手をしたくなるほど感激した。

 

後の説明によれば県大会では優勝しているそうだ。

 

完全に納得である。

 

寺に戻り、早速、龍笛を吹いた。

 

中学生の演奏におじさんが触発されてしまったのだ。

 

が……。

 

「ん~」

 

とても生徒たちの演奏には追いつけそうにない。

 

またもや自分の感性の鈍さに落胆した。

 

 

法然上人の御教えに、以下のお言葉がございます。

 

『念仏を信じる人は たとえお釈迦さまの教えをよく学んでいても 自分は経典の一文さえわからないおろかな者と受けとめて 知識のない者と同じように智者ぶったふるまいをしないで ただひたすらに念仏をするべきです』

 

【宗祖法然上人御遺訓・一枚起請文(現代語訳)浄土宗ホームページ】

 

ありがとうございました。