一期一会の春を写す~ボケの花とメジロ、奇跡の出会いを切り取る
厳しい冬を越えて咲く、燃えるような朱色のボケ
早春の冷たい空気の中で、パッと灯がともったように咲き誇るボケの花。その鮮やかな朱色は、冬の眠りから覚めたばかりの庭園や公園を、一気に華やかなステージへと変えてくれます。ボケの花びらは、まるでシルクのような柔らかな質感を持っていますが、その枝には鋭いトゲが隠されています。この「美しさと強さ」が同居しているところが、ボケの大きな魅力と言えるでしょう。
写真家としてファインダーを覗くと、背景に冬の枯れ色が残っているからこそ、ボケの赤がより一層引き立つことに気づかされます。まだ葉が少ない時期に花だけがポツポツと咲き始めるため、一輪一輪の形がとてもはっきりと際立つのです。光が当たると、花びらの重なりが美しい陰影を作り出し、まるで自然が作り出した芸術品のようです。そんな美しい花々に誘われるように、どこからか「チー、チー」と高く可愛らしい鳴き声が響き渡ります。それは、春の訪れを告げる小さな主役がすぐ近くまで来ている合図なのです。
蜜を求めてやってくる、春の使者メジロ
鳴き声の主は、目の周りが真っ白なアイリングで縁取られた「メジロ」です。その名の通り、白いメガネをかけているような愛嬌のある顔立ちをしています。体全体は若草色、いわゆるウグイス色をしていて、ボケの枝の間を縫うようにチョンチョンと軽やかに飛び跳ねる姿は、見ているだけで心が温かくなります。メジロは花の蜜が何よりも大好きで、この時期は甘い香りに誘われてボケの木に集まってくるのです。
彼らの動きを観察していると、とても一生懸命なのが伝わってきます。細いくちばしを器用に花の奥まで差し込み、夢中で蜜を吸い上げます。その際、顔の周りに黄色い花粉がついてしまうこともありますが、それさえも可愛らしく見えてしまいます。メジロが蜜を吸うたびに、ボケの枝がゆらゆらと揺れ、春の柔らかな風を感じさせてくれます。大きな鳥たちに邪魔されないよう、小さな体で素早く動き回るメジロは、まさにこの季節にしか会えない特別な「春の使者」なのです。彼らが花から花へと飛び移るたびに、庭全体に生命のエネルギーが満ち溢れていくような気がします。
一瞬の輝きを切り取る、贅沢な待ち時間
メジロはとても活発で動きが早いため、写真に収めるのは実はかなりの難関です。しかし、その難しさこそが写真家の魂を揺さぶります。大切なのは、追いかけるのではなく「待つ」こと。メジロが次に行きそうな、日当たりの良い綺麗な花をあらかじめ決めておき、そこにピントを合わせてじっと静止します。カメラのシャッターボタンに指をかけ、呼吸を整えてその瞬間を待つ時間は、自然の一部になったような不思議な感覚に包まれる、最高に贅沢なひとときです。
ふとした瞬間に、メジロがこちらの存在に気づいたかのように顔を上げ、カメラ目線でポーズをとってくれることがあります。その一瞬、レンズ越しに目が合ったときの高揚感は、言葉では言い表せません。カシャカシャというシャッター音が春の静かな空気に溶け込んでいきます。メジロの羽の細かい質感や、瞳に映る光の粒まで綺麗に撮れたときは、何時間待ったとしてもその疲れが吹き飛ぶほどの達成感があります。自然が見せてくれる最高のドラマを、自分だけのフレームに閉じ込める。これこそが、生きものを撮影する醍醐味だと言えるでしょう。
花と鳥が教えてくれる、一期一会の季節
ボケの花とメジロが織りなす「花鳥風月」の世界は、私たちの日常がいかに美しいもので溢れているかを教えてくれます。ボケの花が咲き、メジロが訪れる期間は、一年の中でもほんのわずかな時間です。雨が降れば花は散り、メジロたちは次の季節を求めて別の場所へと旅立ってしまいます。だからこそ、今この目で見ている光景は、二度と同じものはない「一期一会」の贈り物なのです。
忙しい毎日を過ごしていると、足元の小さな変化を見逃してしまいがちです。でも、少しだけ歩くスピードを緩めて、近所の木々を見上げてみてください。そこには、小さな命たちが懸命に今を生き、季節を謳歌している姿があります。ボケの赤とメジロの緑。その鮮やかなコントラストを心に刻むことで、明日からの日々が少しだけ優しく、明るく感じられるはずです。写真として残すことも素晴らしいですが、まずは自分の目でその美しさをしっかりと味わい、春が運んできてくれた小さな幸せを噛み締めていたいものですね。
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