ワスード興味本意で壊れたヘキサガンを抱えながら入江の横穴へ進んでいった。少し進むとさきほど聞こえた声がさらに鮮明に響いてくる。どうやらラミアや死者のものではないようだ。
「・・・・・様、クル・・・・・スパイ・・・・ようです。」
横穴の奥が拓け、部屋のような空間が広がっていた。ワスードはその中心で話す人影にハッとした。
「そうか・・・。では感づかれる前にやつらを騙し、まとめて処刑するとしよう・・・。」
そこにいたのは皇国軍のヤズクールと暗礁域で出会ったガルカだった。ワスードは二人に気づかれぬように岩陰を伝い、近くで様子をみることにした。ガルカに顔がわれているため、少しでも音をたてたら迷子になりましたでは済まされないだろう。
「では作戦を実行だ。ぬかるなよ、不滅隊ゴワム。」
ゴワムはうなずくと入江の出口へと向かおうとした、しかし
「はぁはぁ・・・、いやぁワスード君!こんなところにいたんですか。随分と探してしまいましたよ。」
「マッ、マイルスさん!そんなに大きな声だしちゃ・・・!」
最も悪いタイミングで死者達との戦闘でぼろぼろになったマイルスが合流してしまった。少年にとって人生ではじめて、うれしい事と悲しい事が同時にきた瞬間であった。
「ふん。ネズミが二匹迷いこんできたようだな。少なくともガキのほうは話を聞いていたようだ、始末しろ。」
ヤズクールがそう言うとゴワムは剣を抜き、ワスード目掛けて走り出す。マイルスも状況がつかめずにいたが少年の危機に鎌を構え、かばうようにガルカに立ちはだかった。
「ふっ・・・、皇国軍さんよ。無駄な殺生は良くないぜ?。」
剣をまじえるまさにその時、部屋の奥にある岩陰からクルタダがさっそうと飛び出してきた。残りの4人も後ろに立っている。
「スパイを海猫党に仕込み俺らを一網打尽にしようとしたみたいだが・・・、そこのでかぶつ君よりうちのウキのほうが優秀な諜報部員だったみたいだな。ゴワムの足取りも皇国軍の作戦もこいつが全て調べてくれたよ。」
後ろにいたミスラは少しテレた様子でクルタダを見た。ウキという名前らしい。
「そして・・・、そっちの作戦は失敗だったみたいだが。”こっちの作戦”はもうすでに成功しているんだ。」
「なんだと・・・?。」
余裕の表情をみせるクルタダにワスードはいつも以上に目を輝かせた。そしてヤズクールは怒りを隠し切れない様子だ。
「なぜ俺がこの地にワスードとマイルスを送ったか、それは興味があったのもあるがゴワムとお前が合流するのを遅らせるためだ。案の定、ゴワムは二人を避けるように遠回りをして別の洞窟から入江にきた。そしてその間に俺たちはこの空間に”罠”を張る時間を得たんだ。」
クルタダはヘキサガンを取り出し、天井へむけて引き金を引いた。ドーンという大きな音とともに天井から炎が降り注ぐ。
「くっ、ゴワム!そのガキをさっさと始末しろ!一時皇国へもどるぞ。」
ヤズクールは皇国の動きと知ってしまった少年をこの事態になっても見逃さなかった。
「ふふ、私を誰だと思っているんですか?サンドリア王国の名家デュランダル家の剣術を継ぐものです。元・・・ですがね。」
そう言いながらマイルスは大鎌をゴワムへ投げつけ、ひるませたと同時に腰にさしていた鞘に手をやり剣を抜いた。その美しい深い青の刃は一瞬にして大柄のガルカを薙ぎ払った。
「これは代々伝わる片手剣で、”決して錆びぬ鉱石”を使って名工が作り上げたものだそうです。血を流したくなければすぐに立ち去ることですね。」
マイルスはにっこりと笑いながらヤズクールに剣先を向けた。想定外の状況に想定外の助っ人、ヤズクールにはもう成すすべがなく怒りの表情を見せつつもゴワムと一緒に入江の奥へと姿を消した。
「さぁ、俺たちもそろそろ脱出だ。だいぶ火がまわってきたようだからな。ナシュモでおちあうことにしよう。」
クルタダの声が聞こえたと思うと、火の奥で見えていた5つの影がふっと消えた。
「私たちももどりましょう。目的のものは見つけられましたか?。」
マイルスがワスードの方を向くと少年はうなずきながら抱えていたヘキサガンを見せた。