もうアラパゴへ着いてからどれほどの時間がたっただろうか。マイルスとワスードは長時間の移動と周囲への緊張ですっかり疲れきっていた。
「ワスード君・・・。海賊のアジトへはまだかかりそうなのかぃ?さっきから似たような景色だけど・・・。」
マイルスが重い口を開く。なにかしゃべっていないとそれだけで気がめいるような状態だった。
「違うんだ・・・。霧で少し見えにくいけど、ムティーブ兄ちゃんに教えてもらった通りに歩いてるはずだよ。」
サンドリアでナイトとしてきびしい訓練を積み、暗黒騎士として今まで鍛えてきたマイルスでさえ疲れているのだ。まだ子供のワスードの声は消え入りそうなほど小さくかすれていた。ついに二人は足を止め岩を背にしながら座り込んでしまっていた。マイルスはカバンから水と干し肉を取り出しワスードに分け与え、終始無言のまましばらく時が流れた。するとワスードが思い出したかのように話し始めた。
「兄ちゃんがよく言ってた事があるんだ。アジトのある暗礁域には死者の軍団を操る”ラミア”と”メロー”っていう獣人が住み着いてるんだって。危険な場所だけどそのおかげで安全なアジトを作れたって。」
「なるほど・・・。死者の軍団を操る・・・ですか。私の生まれた大陸でも高等な魔法と文化を持つ”ヤグード”という獣人がいましてね。死者を操るなんてものは聞いたことないですがいま人間が使っている魔法の大半は彼らが生み出したものらしいですね。」
干し肉を少しずつ口に含みながらマイルスはそうつぶやいた。それと同時に急にハッとなり周囲を確認しはじめた。ワスードは彼の行動を不思議そうに見つめていた。
「やはり・・・!ワスード君、すぐここを離れますよ!。」
マイルスが気づいていたときにはすでに遅かった。まわりをスケルトン族に囲まれその後ろに青い肌をした獣人が見えたのだ。突然の事態にワスードは動揺を隠し切れなかった。
「私達は道を間違っていたわけじゃなかったんです。ヤグードの本拠地オズトロヤ城では魔道士による”幻術”で大戦時の劣勢をきり抜けたと聞いたことがあります。あの青い獣人が魔法に卓越してるのであれば、この状況に納得がいきます。」
少年を気遣い冷静さを装いながら、マイルスは大鎌を手に周囲へ向けて緊張をはりめぐらせた。
「幻で獲物の体力を消耗させ狩る・・・、サンドリア周辺のオーク族に見習わせたいものです。術が切れている今、君ならお兄さんのところへ行けるはず。私が道を開きましょう・・・。」
「でっ、でも!マイルスさ・・・むぐ。」
ワスードの口を抑えながらマイルスは少年へにっこりと微笑んで見せた。そして深呼吸をし、一気に骨の軍勢へむけて走りこんだ。薙ぎ払うようにマイルスは前進を続け、ワスードはその後ろにぴったりをくっつき逃げる隙を探した。青き肌の獣人は二人の突然の行動に不意を衝かれたのか、まだ骨達へ攻撃の指示をだしきれていない。
「思ったとおり死者は死者。術者の指示がないと動けないようですね!・・・漆黒の光・・・、我が魔力を用って邪を捕らえよ!」
マイルスの手から放たれた光が敵を包みこみ、一瞬だけ動きが止まった。その隙にワスードは魔物の間を駆け抜け、円陣から脱出をする。そのとき奥の岩陰から声が聞こえてきた。
「ワスード!こっちだ!。」
そこにはムティーブと白門でみたミスラの姿があった。ワスードは夢中でムティーブの元へを走っていった。
「ふぅ・・・これで彼は安心だ。さて、私もそろそろ逃げなくては・・・ぅぐっ!」
少年をかばっていたマイルスにできた隙を死者達は見逃さなかった。薙ぎ払う鎌を越え、ついに敵の攻撃が直撃してしまったのだ。その場でよろめくマイルスに、さらに獣人が魔法の詠唱しはじめる。ここまでかと彼の頭を最悪の事態がよぎった。報酬のシュトラッチが食べられない・・・・・!。そう思ったそのときだった。
「六銃口の烈風・・・、ウィンドショット!。」
ブワっという音とともに辺りにいた骨達が吹き飛ばされた。さらに獣人の詠唱も止まっている。そして状況が把握できないマイルスの真後ろから声が聞こえた。
「仲間の弟を助けてくれた恩人だ。今だけおまえに力を貸そう。」
声に驚き振り向くとそこには特徴的な帽子をかぶり、見たことのない形状の銃を持ったエルヴァーンが立っていた。
「俺の名はクルタダ。この暗礁をアジトとする海猫党のリーダーだ。」