突発小説もどき -A Chird Dream 6-(BlogPet)
―――口元から一筋のブリッジヘッドの子ども心なりに察した地表の破損、母親の隙間から来てリザードマンの中にノイズがふっと緩む!!
比較的治安も一歩も動き出すだろ?それすらも動き出すだろうと表現する為の裏のはためく音の吹き溜まりの存在だ食材を肩で片付けてみた猫が疼くも無くなった記憶がどんなものアヴェニーに街を構える冒険者もの一串を思いも仕方が蠢きやすい場所で誰も安定し活動し続けた。
*このエントリは、ブログペット の「豆柴 」が書きました。
突発小説もどき -A Chird Dream 6-
――― 五年前。
ジェング、当時十八歳。
まだギルドに入隊したばかりの彼に初めて課せられた団体遂行依頼(ギルドクエスト)。
それこそがトワイライト盗賊団の討伐だった。
当時より古都ブルンネンシュティグを縁故地とし活動していた彼らに、当時のブリッジヘッドの役人たちは助けを求めた。
依頼に参加したギルド幹部の者たちにとっては慣れた団体戦、ジェングにとっては初陣となる団体戦。
戦力になるどころか足を引っ張るだけの存在だと思い知ったのも、きっとこれが最初だった。
幹部の者たちの圧倒的な強さ、そして見えない糸で結ばれた団結力に言葉を失わされたのも、きっとこの時からだった。
けれどそんな者たちを前にしてもトワイライト盗賊団を壊滅に追いやる事は出来なかった。
自分が足を引っ張ったからなどというのは二の次にしてもだ。
彼らは強かった、けれどそれ以上にトワイライト盗賊団の方が上回っていた、それだけの事だった。
そして依頼を白紙に戻す決定打は別にあった。
ある日を境に、トワイライト盗賊団の出没が忽然と途絶えてしまったのだ。
しばらく警戒と共に様子を見るも、トワイライト盗賊団の目撃情報はぷっつりと聞こえなくなり、依頼主により全てを白紙に戻された。
そしてそれから五年もの月日が流れ――― ジェング、二十三歳。
白紙に戻された時間は、急速に針を進める。
-A Chird Dream 6-
もうもうと広がる煙が薄れ、景色を取り戻してゆく。
焼けるような目の痛みからようやく解放された時には、組み敷いていたはずの男も、傍に居た男も既に姿はなかった。
殺そうと思えばいくらでも殺せたはずなのに、彼らは自分を生かしたまま去った。
どうして…?
それが脳裏に過ぎった瞬間、煙弾幕が炸裂する前に地表が次々と爆発した事を思い出し、ジェングがはっと顔を起こした。
「……まっ、マスター!」
驚いた顔でジェングが叫んだ。
マスターと呼ばれた女性はにこやかに笑ってこんにちはと言った。
ジェングがマスターと呼んだこの女性こそ、ジェングの所属するギルドのギルドマスター。
次々と起こった地表の爆発は、彼女の持つ弓矢から放たれたランドマーカーだった事を、ジェングは今更になって知る。
彼らが逃げ出した理由がやっと分かった、新たな敵の参上に手負いでは分が悪いと思ったのだろう。
ジェングがどうしてここにと尋ねる前に、マスターはジェングがここにいるから来てみたと言った。
…成る程、自分の持つギルド紋章、これが発信機の役割を果たしている事をすっかり忘れていた。
予告無く現れては人を驚かす事が好きな彼女の気まぐれが無ければ、今頃自分はこうして呼吸をする事も叶わなかっただろう。
それが思わぬ助けになった事に、ジェングが苦笑を浮かべて血を拭った。
今度はマスターから何があったのかと問い出された。
ジェングの外傷、鎧の破損、砕け散った岩や大地の損傷を見る限り、穏やかではない何かがあった事は一目瞭然だ。
「…五年前のクエストの続きです。マスター、皆に集合をかけてください」
お願いしますと頭を下げるジェングを見て、マスターもすぐに首を縦に振った。
これ以上聞かずとも“五年前のクエスト”と聞けば彼女はすぐに察しただろう。
彼女もまた、クエストに参加した一人だったのだから。
日もすっかり没し、闇が世界を支配し始めるその頃。
同じ時間の別の場所では、新たな展開が幕を開けていた。
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古都ブルンネンシュティグの食品露店街にて。
「…ぐすっ、オレの飛虎貯金がぁ…」
折角稼いだ本日の資金があっという間に晩飯で消えた事に涙する男。言う間でもないがシャルワールである。
何か聞こえた気がするが聞こえなかった事にしよう。突っ込めば買ってくれとせがまれるに決まっているからだ。
三人分の食費がサイフを直撃したのは確かだが、資金があっという間に底を尽いたのはそれだけが原因ではない。
立ち並ぶ美味しそうな食料に目を奪われ嗅覚を刺激され、気が付けばあれくださいこれくださいと買い食いをしていたのが直接な原因だった。
しかしシャルワールでなくとも賑わいや祭り事が好きな者ならばサイフの口も緩むというものだ。
ブルンネンシュティグ近辺で捕れる新鮮な鷲鳥のから揚げ、クラブシェルの蒸し焼き、メロウの尻尾のスープなど、他にも食欲をそそるものがずらりと客を待ち構えている。
これもブルンネンシュティグ近辺を狩場とする若手冒険者の活躍があってこその収穫であり、また露店も彼らで成り立っている店が殆どだ。
比較的治安も安定しており、夜となっても安心して露店で賑わえるのがブルンネンシュティグの特徴であり、そんな彼らを見守るように街を巡察しているのは、古くからブルンネンシュティグに縁故地を構える冒険者やギルドの者たちであった。
一つ一つが連鎖するように支え合い成り立っている、そんな難しい事を考えもしないシャルワールは治安安定の恩恵にあやかってリザードマンの肉の串焼きを食べ歩いていた。塩コショウのスパイスがよく効いているこの串焼きが、ここ最近で彼が一番気に入っているものらしい。
シャルワールは小さい頃からこの食品露店街が好きだった。
自分もついていくと駄々を捏ねて、よくジェングと一緒に通ったものだ。
そんな昔の事を思い出し、シャルワールの頬がふっと緩む。
物心ついた頃から自分の手を引いているのはジェングだったが、自分と同じくらいの子どもたちを見れば同じように手を引かれていても、引いている者は女性ばかりだった。
いわゆるお母さんという存在だ。
シャルワールはお母さんという存在を知らない。
自分を生んでくれた人がお母さんであるという常識的な知識はあるが、お母さんがどんなものなのか、母と接した記憶が一つも無いシャルワールにはそれが分からなかった。
よく分からぬままに、ジェングにお母さんの事を訊ねた事もある。
その時ジェングが何て答えたのか、シャルワールはもう覚えていなかった。
母親がどんなものかさえ知らないシャルワールにそれを恋しがる思いは無いけれど、母親がいない環境が周囲と違う事も、子ども心なりに薄々気付いていた。
ジェングに手を引かれている自分と、母親に手を引かれている子どもと目が合った時、シャルワールは子どもから何と言われたか分かったような気がしていた。
上手く言葉にできないけれど、まるでこの光景を否定されたような気がして。
ジェングに見えないように目が合った子どもに“べー”を返した事も少なくはない。
物心ついた時にはもう、自分の手を引いて前を歩く者だけが、自分の保護者であり母親のようなものだったから。
いつも彼の背中ばかり見ていた。
あれから何年もの月日が流れているのだから、当然“見上げる”という行為はしなくてもよくなったけれど。
それでも変わらないのは、その背中の“大きさ”。
そのまま背中が大きいという意味ではない。確かに大きいけれども。
…言うなら、存在の大きさだろうか。
「―――……」
最後の一串を食べ切った。
いつの間にか周囲の賑わいさえも耳に入らなくなっていた。
停止していた時が動き出したかのようにノイズが駆け巡る。
人ごみ。
雑音。
これだけ人がいても独りきり。
そんな中に一人立たされても、自分の手を引いてくれる手を必要とする事はなくなった。
…今はもう、ジェングと一緒じゃなくても一人で歩けるようになった。
(…何考えてんだろ? やめやめ)
近くにあったごみ箱に串を投げ入れ、買い込んだ食材を両手に来た道を戻る。
自分が何を考えていたのか分からない……それもあるけれど。
それ以上考えたら、何かに辿り着いてしまいそうな気がした。
直感が働いた。
それ以上は考えるな、と。
「………」
よく分からない苛立ちにシャルワールの歩幅が広くなってゆく。
苛立ちの中に隠した焦り。
家に着けばこの思いもなくなるだろうか。
今はただ、早く解放されたかった。
…その時だった。
「…!」
不意に視線を感じた。
反射的に振り返るも、視界に広がるものは相変わらずの雑踏。
…気のせいだろうか。
……いや、あれは間違いなく視線だった!
苛立ちで気が敏感になっていたのが功を奏したか、それとも苛立ちを帯びて初めて視線に気付いたか。どちらにしろ一度気付けばもう騙されない。
見えぬ存在を目で追おうと周囲を見渡すも、この中では特定など不可能に近い。
けれどシャルワールは諦めなかった。
視線の主が見つかるまで何度も周囲に目を配る。
何度も何度も目を走らせて、泳ぐ人ごみを掻き分けて前に進んだ。
――― その努力が実ったのか、人ごみの中でシャルワールの足が不意に止まる。
…ああ、それは違った。
実ったのではなく、相手からわざと躍り出たのだ。
このオレが気付くように。
行き交う人々は彼の存在など見えていないかのように横を通り過ぎる。
それは彼の視線が最初からシャルワールだけに向けられている事を意味していた。
数十メートルもの距離がありながら、その距離を全く感じさせないほどにその者の存在はシャルワールの目に大きく映った。
赤ワインに黒を混ぜたような瞳がこちらを見ている。
「―――……」
その目はシャルワールの動きを完全に奪っていた。
もしも呼吸が無意識に行えるものではなかったら、シャルワールはそれすらも忘れていただろう。
――― 口元が動いた。
…笑った、と、シャルワールは思った。
口元は更に違う動きを見せた。
何かを喋っている。
この距離からでは何と言ったのか聞こえるはずもない。
口元の動きも読み取れない。
なのにシャルワールには分かってしまった。
彼は今、こう言った。
“遊ボウゼ?”
「――― っ」
咄嗟に息をぐっと飲み込んだ。
シャルワールは首を縦にも横にも振らず、ただ相手を凝視し続けた。
そんなシャルワールを見て再び小さく笑うと、相手は背を向けて遠ざかっていった。
…諦めたのか。
……違う、ついて来いと言っているのだ。
(…ヤベぇ、マジ怖い)
頭の中で鳴りっ放しの警告音に表情が曇る。
遊ンダが最後、決して無事では済まされない事が容易に頭に浮かんだ。
行きたくない。
何も見なかった事にして引き返したい。
…けれど、それもできそうになかった。
行けば後悔するだろう、けれど行かなくてもそれは避けられない。
…行かなければ、それ以上に取り返しの付かない事が起こりそうな予感がするのだ。
ふと、両手に持つ荷物に視線を落とした。
「………」
…帰ったら間違いなく半殺しにされるだろうな。
……もっとも、生きて帰れたらの話になるけれど。
「…なぁ、おっちゃん」
酒が回って良い気分になっている男を呼び止める。
「んあぁ? 何だお前?」
男は喧嘩を売られたのかと早とちりしてシャルワールによろよろと近付いた。
「リザードマンの串焼きは好きか?」
「リザードマン? …おお、あの露店のか。あれは旨いねえスパイスが肉の旨みをピリッと引き出していて一度食えば癖になる」
呂律の回らない口でずらずらと褒めちぎり出す男にくすりと笑うと、シャルワールは両手に持っていた荷物をずいと押し付けた。
「んぁ?」
「やる」
何をしているのか分からないといった顔でぽかんとしていた男だが、にっと笑って差し出された荷物をぼんやりと受け取った。
「…ん? この匂いは…リザードマンの串焼き? …っておい、どこ行ったんだボウズ!」
荷物から香ってきた肉の匂いに酔いが醒めだした頃には、少年は既に人ごみの中に消えていた。
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――― ブルンネンシュティグ東の外れにて。
街の中心から離れれば離れるほど、建物は煌びやかさを失っていき明かりすらも乏しくなる。
いかにも貧しそうな家、夜だというのに取り込まれてもいないぼろぼろの洗濯物、たまに大きな建物があったとしても、廃屋となって何年も経っていたり。
人ごみが消え人気も無くなったこの辺りは、いわゆる貧困者の吹き溜まりのような場所だった。
富を築く者がいれば貧しさに苦しむ者も必ずいる。
豪邸の中でぬくぬくと暮らしている者たちの裏で、生まれに恵まれなかった者たちは絶望を感じながらも今を生きる、そんな時代。
人がいるのに人気が無い、そんな寂しい場所には警備も手薄で誰も近寄らない。
…だからこそ、裏の世界が蠢きやすい場所でもあった。
「…!」
小石が跳ねる音。
明かりの少ないこの場所では、ほんの僅かな物音さえも情報になる。
時には風の乱れ、時には視界を一瞬掠めた影。
今の小石の音も偶に起きたものではなく、シャルワールを誘導する為のものだ。
夜目の効くシャルワールにはある程度視界は見えるものの、それでも誘導する者の気配は度々見失っていた。
見失い足止めを喰らう度に石や草の音で前に進まされていた。
…相手はどこまで行くつもりなのだろうか。
不安が疼くも、ここまで来て引き返す事などもうできない。
…と、一層闇の深い建物の隙間から小石が跳ねる音が聞こえた。
「………」
シャルワールはあれが最終地点だと悟った。
その証拠に今度は気配がある。
ここに来い、と言われている。
「………」
行けば殺されるだろうか…思い、首を横に振った。
恐らく殺されはしない。
…“まだ”殺されはしない、と言った方が正しいか。
ここで足踏みをしていても仕方が無い。
こうなれば成り行きに任せるしかない…そう思うと、シャルワールはようやく足を動かし、建物の隙間に身を潜らせた。
――― そこだけ空気が冷たいと感じたのは気のせいだろうか。
外気に触れた頬が冷たいと言う。
…まるで死の手に触れられたかのように。
「…今晩はシャルワール」
初めて聞いたその声は、思っていたよりもずっと幼かった。
「…誰? アンタ…」
黒の混じった紅がこちらを見ている。
名前を呼ばれた事に、シャルワールは驚かなかった。
「お前が話の読める子でよかったよ。来なかったら祭りが血祭りに変わるところだったぜ」
問いを無視したその言葉にシャルワールの目がぴくりと動く。
恐らく相手は自分と同じくらいか、それよりもう少し下の年齢。
自分よりも年上の者からは子ども扱いされようが気にならないシャルワールだが、自分と年齢が近い者から言われるのは気に入らなかった。
しかしこの時ばかりはシャルワールは反抗しなかった。
言葉の後半部分に確かな殺意を感じたからだ。
「…じゃあ本題といこうか。俺はアヴェニー。お前に会いたくて遠路はるばるここまで来たんだ」
「…?」
アヴェニー…、やはり記憶にそんな名前の知り合いなどいない。
遠路はるばると言うなら尚更接触した事など無いはずだ。
…けれどどうしてだろう。
彼の帯びる雰囲気を、どこかで感じた事があるような気がした。
「…会いたくてってどういう意味だ? オレはお前なんか知らねえ」
「そうだろうな。でも俺はお前の事をよく知ってるぜ」
「…どういう事だよ」
「あんなチャチなダンジョンを楽しそうに攻略してくれる馬鹿がいたら嫌でも目につくってもんだ」
「…!」
「お前があんまり楽しそうに遊んでくれるから俺も嬉しくなってな。本当はお前が完全攻略するまで待ってやりたかったけど、邪魔が入ったからそうもいかなくなったんだ。だから」
――― 笑った。
「一緒に来いよ、お前の為の祭りだぜ。邪魔者を潰そう」
ばっ――― と布のはためく音がしたかと思うと、シャルワールはアヴェニーから距離を取り戦闘の構えを取っていた。
「…やめときな? お前じゃ俺には勝てないぜ?」
「…そんな事分かってる。でもお前が何を言いたいのか大体分かった」
嘲笑うアヴェニーにシャルワールのバグナクが低く呻る。
「…お前って本当に不思議な奴だ。馬鹿なのか賢いのか未だに判別つかねぇぜ」
「そんな事どうでもいい。ルヴェニスは」
シャルワールの静かな言葉の裏に初めて見る怒りの色。
そんなものアヴェニーには通用しなくとも、「見るだけで射抜く」と表現するには十分すぎるほど鋭い眼差しだった。
「あはは…むやみに名前(情報)を出して、人違いだったらどうする気?」
「答えろ!」
「くく…その命知らずさに免じて教えてやる。今は俺の部下と遊んでいるところだ」
「……」
「逆に遊ばれている可能性が高いけどな」
「…どうしてだ。オレを連れて行ってルヴェニスの気を引こうとでも思っているのか?」
「お前なんかじゃ餌どころか釣り針にもならねぇよ」
「じゃあ尚更おかしいだろ。オレが戦力にならない事くらいお前ならすぐに見抜けるはずだ。オレが殺される事はあってもオレにルヴェニスは殺せない」
「もちろん分かり切っている。お前はただ一緒に来てくれればいい、今のところはそれ以上は何も望まない」
「嫌だと言ったら?」
「残念ながらお前に嫌だという選択肢は無いんだわ」
言葉が終わるのを待っていたら死んでいた。
バク転で交わさなければナイフが喉元を抉っていた。
建物の壁に沿って積み上げられた木箱を蹴り倒し、崩れる派手な音の中にシャルワールが隠れる。
木箱の中には腐食した何かの死骸が入っていたのか、嫌な臭いを撒き散らして羽虫がいっせいに飛び交った。
その音に闇に紛れていた人々の気配が次々と躍り出、露骨に逃げ出していく。
「―――……」
闇に姿を隠す素振りも見せず、アヴェニーは元からいた位置から一歩も動かずに笑っていた。
風に乗って漂う獲物のにおいに悦んでいる。
傍から見れば隙だらけのそれも、警戒網(ナワバリ)の中で獲物が射程距離に入るのを待っているにすぎない。
ギン―――!
バグナクとナイフの正面からぶつかる音が響いた。
飛び掛ったのはシャルワール。
小細工の無い純粋なぶつかり合い。
けれど力量は火を見るより明らかで。
パァン―――!
「!!」
バグナクとナイフの接触部から火花が散ったかと思うと、シャルワールのバクナクが粉々に飛び散った。
アヴェニーがほんの少し手首を捻っただけで簡単に砕け散った鋼鉄の刃。
すかさず地面を蹴り距離を取る。が、アヴェニーのスピードには敵わなかった。
一瞬で距離を埋められる。
…敵わない。
ヒュッ―――
…風を切る音が聞こえたと思った、そんな一瞬。
シャルワールの口元から一筋の紅い雫が流れ落ちた。
焼けるような腑の痛み。
ああ、切られたのだと分かった…
膝から地面に崩れ落ちる寸前、アヴェニーが崩れ落ちるシャルワールの体を肩で受け止めた。
その顔はまるで獲物を捕らえた獣のよう。
意識を失った人間の体はとても重たい。
けれどアヴェニーはそんな体を軽々と持ち上げ歩き出す。
急所はぎりぎり外してある。
シャルワールはただ、腑を切られたショックで気を失っているだけだった。
これだけ騒げばさすがに警備ギルドも動き出すだろう。
できれば穏便に事を運びたかった。
そう思い、意地悪く笑う。
敵わないと分かっていながら歯向かってきた事にも少しだけ驚いたが、それ以上に驚いたのが、シャルワールがこちらに興味を向けなかった事だ。
あのダンジョンを作ったのは自分だと仄めかせば、普通は動揺するだろう。
しかしシャルワールが食いついたのはそこではなかった。
たったあれだけの時間で相手を読み、更にはあれしきの話でその先をも読んでみせたシャルワールの洞察力にはアヴェニーでさえも揺るがされた。
動揺させるつもりが逆に動揺させられるなんて思いもしなかった。
何でこいつシーフじゃないんだ? 勿体ねぇ。
そんな事を思いながら耐え切れず笑みを零し闇に消えていく。
やがて街を巡回していた警備ギルドが駆けつけた時には、砕け散った木箱と腐食した猫の死骸しか見つからず、野良犬や猫が抗争した際に崩してしまったのだろうと、警備の者たちはそんな簡単な理由で片付けてしまった。
実際に見ていた浮浪者たちの話に耳を傾けていれば、今とは全く違う対応を取っていたであろうに。
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なかがき。
ほんとにこんな露店街があったらいいのにねぇ!(´¬`) ンマソー!