理想郷 金山中国茶苑 | ジャン=ピエールの霧の中の原風景

ジャン=ピエールの霧の中の原風景

こだわりの食とお酒を味わった思い出や情報を綴ります。

お店を経営するということは利益をあげることを二の次にはできない。
利益を追求すると客をたくさん呼ばなくてはならないし、価格もシビアに考えなくてはならない。
宣伝費も人件費も馬鹿にならない。
もしそんなことを一切考えずに自分一人でできる範囲で、それに客も確実に来る人の分だけ考え、その客に喜んでもらえるように自由に料理を作ることができたらどんなに素晴らしいことであろう。
しかし、そんな店にするためには何よりもありあまる財源に恵まれていなくてはならない。
家賃と人件費はかからないわけであるから後は材料費で原価を割らずに作ればいいのだが…
そんな店にまず巡り合うことなどないだろうと思っていたが、まず、喫茶ひよ子に出会った。
サイフォンでいれる一杯150円のコーヒー、果実をジューサーにかけて作る250円の名実ともに100%なフレッシュジュース、フルーツパーラでなら二~三倍の価格になりそうなホットサンドイッチ。
こういう価格でできるのは間違いなく趣味の世界と言ってもいいくらい生活に余裕がないとできないわけである。
そんなお店がもう一つあった。
それも群馬県太田市にある金山という山の麓にである。
その麓の、ある坂道から上は全てそのお店のオーナーの所有地および建物になるという。
その坂道を上がっていくとその邸宅は忽然と姿を現すのであった。


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立派な別荘という感じの建物である。
軽井沢にでも来たかと錯覚してしまう。
その入口近くにある小さな金山中国茶苑という木の看板がなければ誰もここが中国料理店だとはわかるまい。


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その邸宅の重厚な扉を開くと誰しも更に驚くことであろう。


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高い天井の中心には立派なシャンデリアが煌めいている。


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置いてあるアンティークのテーブルもペルシャ絨毯も500万円は下らない立派なものであった。
中国人の高貴なマダムがテーブルに近づき挨拶をする。余計なことはしゃべらないし、知識の披瀝や自慢はしないが、品のいいホスピタリティが素晴らしい。


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まず、中国茶が振る舞われる。
それもただ者ではないお茶である。
この味わいは半発酵茶の中でも発酵度が高く紅茶に近い青茶、東方美人の極上品であろう。

美しい器に茶葉が入れてありそれにポットのお湯を注いで何杯も楽しむ。

凛としていていて涼やかで品がよくすこぶる美味しい。


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ヨーロッパ人にも人気が高くオリエンタル・ビューティと言われダージリンと比べられるこの東方美人は普通のレベルのものでも市販価格で30グラム1500円はする。

それを一人ずつ器にたっぷり入れてあるのだ。

もともと東方美人は茶葉を多めに入れ紅茶と同じように高温のお茶でいれて飲む。

ポット内の温度もしっかり高温になっていた。

このこだわりようは本物を熟知しているし尋常ではない。

お店の名前からして中国茶に関係するお店なのだろうか。

お茶を味わっているうちに二種類のサラダが出された。
一つは自家製湯葉とセロリのサラダで、もう一つはゴーヤとパブリカのサラダである。
自家製湯葉とセロリのサラダは品がよく旨みがあって、絶妙な量の胡麻油がアクセントになっていて美味しい。


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それに自家製らしき湯葉がたくさん入っていた。
ゴーヤとパブリカのサラダは野菜がとても新鮮である。


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特にゴーヤは相当フレッシュでもぎたてでないと、こうすっきりとはいただけない。
そして、椎茸に豚肉のミンチを詰め物の揚げたての熱々がテーブルの上に置かれる。


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ミンチがただ者ではなく中国人が作る本物の練り物のミンチである。
これはたまらない。
続いて出されたのは酢豚であった。
黒酢ではなくオーソドックスなパイナップルも入っている広東式の酢豚なのだが、これまた美味しい。


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豚肉の旨みを残した衣のつけ方や絶妙な酸味と甘味のバランスのとり方など最近食べて美味しいと思った江古田知味斉の酢豚の味を遥かに超えていた。
麻婆豆腐も届けられる。


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陳建民さながらの絶妙な辛さとその味わいは誰もが美味しいと連呼して止まない。
そして、極めつけは炒飯であろう。
こんなに完璧な炒め方の炒飯を私は今まで食べたことがない。


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米の一粒一粒に完全に火が通っているのにもかかわらず中はしっとりとしている。
味つけも品がよく、日本人、中国人に関わらず炒飯の名人と言われる料理人の炒飯は数多く食べてきたが、間違いなく私が今まで食べた炒飯の中では一番美味しいと感じた。
そして薬膳スープが添えられる。


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このスープは一品として味わってもかなりのレベルのものである。
まず上湯が完璧である。
中には冬瓜、肉団子、クコの実が入っている。
えもいわれぬ旨みと香りがじわじわと口の中に広がっていくのであった。
感動はこれで終わりではない。
デザートまで心を揺さぶられたのである。
そのデザートは温製白玉胡麻団子であった。


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その手作り感溢れる少し大きめの胡麻団子はまさに中国家庭料理の神髄を味わう気がする。
素敵な昼げはこれで幕を閉じる。
これで一人2100円だと誰が信じるだろうか。
よく見ると玄関前のサイドボードの中にたくさんの種類の中国茶が置かれていた。

潤沢な資産の源は高級中国茶の輸入販売かもしれない。

もの凄く美味しいジャスミン茶はありますかと尋ねると最高級のものがあるという。

横浜中華街では4500円位で販売しているそのジャスミン茶を1500円で分けてもらった。

もったいなくてまだ開けていないが中国茶フリークが集まったら開けようと思う。

中国料理がお好きな方は太田市の近くを通ることがあれば必ず寄るべし。

月曜日が休みで完全予約制であるためどんなに遅くても前日には電話で予約する必要がある。

夜は贅沢にも一組しか予約を受けつけないのでご注意あれ。

昼は2000円から夜は3500円位からだったと思うが、夜は5000円も出せばかなり珍しい素材も味わうことができる。