絶滅危惧に瀕する宮大工を応援したい
日経 地方創生フォーラム②
10月10日から12日まで、3日間、約60人のプレゼンテーションやセッションを見ました。その中で、とりわけ印象に残ったのは花升木工社寺建築の専務、宮大工女将こと市川千里氏です。宮大工木造技術継承協会の事務局長をされています。自ら、職人応援団団長だとおっしゃっていました。
市川さんは相撲部屋の女将さんのように、若い職人さんを住まわせ、そのお弁当を作るとか、いろんなお世話をされています。普段、職人さんの仕事ぶりを見ながら、その生き様について感じたことを語ってくれました。
宮大工は「修行の道」そのもので、職人さんは、日々、自分の技を磨くことだけを考えながら仕事に臨んでいるとのことです。その修行は、毎朝、「道」の友である道具を手入れすることから始まります。日々道具を研ぐことで、次第に感覚が研ぎ澄まされてくるそうです。毎日感性を磨きながら木と向き合う修行をしていると、そのうち、木の声が聞こえてくるのだそうです。その木の声に従って、鉋を引いたり鑿を入れたりする。この感覚は、修行しながら自ら獲得するしかないものであり、言葉で教えられるというものではないのです。
棟梁は何も教えてくれません。ただ棟梁の背中を見て学ぶ、そのような生活をしている職人さんは皆寡黙です。あまり会話が得意ではありません。毎日、ひたすら感覚を鍛える生活をしていると、右脳が発達し、言語野が収縮していくそうです。
脳は活動によって成長し、変化するものなので、鍛え方によっては、特定の部位だけが発達し、特定の部位が衰えることがあります。現代では、脳の発達の状況をMRI脳画像診断で科学的に分析することができます。(詳細は以下をご参照。)職人さんが無口なのは脳がそのように発達したのかもしれません。
多くの職人さんは、そのような、寡黙な性格の人が多いので、ただ日々の仕事、現場しか見ていません。ただ、自分の技を磨くことだけに集中しているのです。ですから、いわゆる広報とかマーケティングといったセンスはありません。
しかし、ITやデジタル化が急速に進む現代において、また、グローバルな巨大資本が支配する弱肉強食のビジネスの世界において、マーケティングゼロでは生き残れません。
このままでは日本の伝統技術、伝統工芸は絶滅する、そのような危機感を抱いた市川さんは、大好きな職人の世界を守るべく、宮大工木造技術継承協会を設立し、日々活動されています。
当日のセッションでは、そんな市川さんを応援し、支えている人たちの活動やご意見を伺うこともできました。
私は、随分前に、昭和最後の宮大工と言われた西岡常一氏の「木のいのち木のこころ」を読んで以来、法隆寺を建設した斑鳩の時代から脈々と続く日本の宮大工の「木」に対する見識の奥深さに圧倒され、その世界に畏敬の念を覚えました。
西洋は石の文化、それに対して日本は木の文化です。古から木と親しんできた日本は、木造建築において世界のどの文化にも負けない技と知識を築き上げてきました。その最高峰が宮大工の技です。その技が人手不足等、様々な要因で失われつつあります。これは確かに大きな問題です。
しかも、失われつつあるのは宮大工の技だけではありません。日本の誇るべき数々の伝統工芸の大半が危機的状況にあります。
このように、現状だけを見ると重苦しい思いにかられます。でも目を凝らすと希望の光も見えてきます。
宮大工女将の市川千里氏が一例です。
今回、地方創生フォーラムで、他にも様々な分野、様々な角度から地方を蘇らせようと奮闘されている方々の話を伺いました。それによって、希望を感じ、勇気をもらいました。
日本全体をならした数値だけを見ると悲観的になりますが、個別事例を見ると、成功事例、変革の兆しなどを発見することができます。失われた30年などと揶揄される日本ですが、勝負はこれからです。日本がV字回復する日が近いのかもしれません。