166. 最先端医療 | BACKUP 2024

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備忘録

 

 

 

アニタ・オデイは麻薬・酒・男と絵に描いたような生涯を送ったジャズ歌手だ。
本作ジャケットの表情からも、深い愁いと薄い幸が見てとれるようだ。だがその歌声けして暗くなかった。ウィリアムス浩子がアニタの「バークリー・スクエアーのナイチンゲール」を聴いたことで、ジャズシンガーになろうと思ったというそのテイクが、本作に収録されている。ちょっとハスキーだがアニタの歌は優しい。
子供の頃受けた扁桃腺手術の際、医師が間違ってノドチンコまで取ってしまい、以来ロングトーンとビブラートが出来なくなったというが本当だろうか。扁桃腺とノドチンコの違いくらい私でも分かる。
実は私も扁桃腺がない。50年ほど前に京都の市立病院で摘出したのだ。これが何とも野蛮な手術で、細いワイヤーの輪を扁桃腺に巻き付けて引き千切るのだ。麻酔こそするが局部麻酔である。千切った後、半田ゴテのようなものでヂヂヂ・・・と焼いてお終い。術後の痛みと出血といったら大変なものだった。10日近く入院した。
当時ガールフレンドみたいなのが三人いて、こういう時は来るなと言っても無駄だ。病室で鉢合わせしないように、見舞いの時間を調整するのに苦労した。それを見ていた同室のオヤジ共が、最初は親切だったのに退院まで口をきかなくなったのには閉口した。自慢話のようで恐縮だが、実際はいか程の事もない。他愛ない話で、これも時効にしたい。

扁桃腺の手術、現在では三日程度で退院出来るらしい。日帰りの人すらいる。全身麻酔でレーザーメスを用い、傷痕もきれいで回復が早いのだという。考えられないことだ。私の時は痛みで一か月近くまともな食事ができなかった。
こういう時食べられないもの、堅い煎餅だとかアツアツのラーメンとか、そういったものが無性に喰いたい。一か月経って何でも食べられるようになったら、案外どうでもよくなったけれど。
とにかく私が言いたいのは、その時点での最新医療というやつは常に相当いい加減なものだという事だ。後で考えたら「あんな事やってたの」ということばかりではないか。たとえば昔の眼科では必ずジョウロのようなもので目を洗浄したでしょう。耳鼻科も上向きのカランで鼻腔を洗った。今そんなことしてますか?
外科では手術後の傷を毎日消毒していたが、科学的根拠ないばかりかかえって害になるというのでやらなくなったそうだ。素人にわからない事で、同様の話が山ほどあるに違いない。

つまり我々がその時受けている医療行為の多くが、何れ陳腐化するか間違いだったとされるトンチンカンな出鱈目だって事だろう。風邪ひとつ未だに治せないのを見るまでもなく、治せない病気ばかりじゃないか。私の知る限り「現在の医学ではどうしようもありません」というのがドラマの決まり文句だった。免罪符と言うか、水戸黄門の印籠のようなものだ。これには異論を差し挟む余地なし。患者サイドは臍を噛むしかない。

しかし実際はドラマの決まり文句とは限らなかったのである。私の父親は74歳の時、ピンピンした状態で検査入院し、翌日行ったら意識不明となっていた。何があったのだろう、見ていた訳ではないから、いや見ていても家族には分からない。
その病院では手に負えないからと、あれよあれよと大病院へ転院させられICUに入れられ、そこの医者にも同じことを言われたが、事実その通りとなり10日ほどで亡くなった。もちろん納得いかず訴訟も考えた。だが素人には何をどう訴えたら良いかすら分からない。それに仮に勝訴したところで父が生還する訳でもない。

30年以上前、前妻が急に体調悪くなり、ある大学病院に入院した。意識が無くなってから悪性リンパ腫だとやっとわかった。意識のない患者に医者は抗がん剤を打ち続けた。今から思えば「最新医療」の実験台にされ、彼女は入院一か月で帰らぬ人となった。41歳だった。この時も、最期が近くなった時、若い主治医が私に同じことを言った。そう言いながら死ぬまで毎日、朝晩レントゲンを撮り続けた。きっとデータが欲しかったのだろう。
これが私個人が間近に見た医者と現代医学の実力である。考えてもみよ、患者にとって未来の医学なんか関係ない。現在の医療で治せないなら死ぬだけだ。尤も人はいつか死ぬ。その死亡率100%である。それでも人は死ぬのが怖いから医者にかかる。医者は人の弱味につけ込む新興宗教と大差ないとも言え、やっている事は徒労に過ぎないとも言える。それにしては医者のやつら態度がデカく、それに儲け過ぎではないのか。私の感覚では仕事というものは成功報酬でなければならない。治せもしないばかりか、場合によっては術死させても金だけは取るってそりゃないでしょう。
そんな医者が「先生」と呼ばれて、当然という顔をしているのが一番腹立たしい。私が医者なら恥ずかしくて絶対やめてもらいたい。それを仲間同士で先生先生言い合ってるものな、あいつら。