167. Sonny Criss | BACKUP 2024

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備忘録

 

 

 

タイトルとジャケットの乖離が激しい。
土曜の朝といっても、金曜の夜遊びから続くまだ明けきらない4時頃のジャズクラブか。
英語がさっぱりなので想像に過ぎないけれど、「サタディモーニング」には遊び過ぎたり飲み過ぎたりであまりすっきりしない朝といったニュアンスがあるのかもしれない。事実私の「サタディモーニング」はたいてい二日酔いだった。
ソニー・クリス作品で本作が一番好きだ。インペリアル盤の「go man!」も好きだが、どちらか一枚と言われればこっちだ。だからもちろんLPも所有する。LPレコード成熟期に入っていた1975年録音だからとても音がいい。ソニー・クリスのアルトはもちろん、あるいはバリー・ハリスのピアノの音もさることながら、特にリロイ・ビネガーのゴンゴンと鳴るベースが凄い。なにより収録曲がすべて良く、スモーキー且つブルージーな色彩で描ききる。

自殺したとされるソニー・クリスだが、諸説あり、女に拳銃で撃たれたという人もある。
女をそこまで思い詰めさせる罪な男が実際いるもので、先日聞いた古い知人の元妻の話も、よく刺されずに済んだなというくらいのものだった。そもそも人妻だった彼女(仮にM子とする)は、夫と娘を捨てて男のもとへ走ったのだった。しかし再婚後間もなく、男にずっと以前から他に愛人がいた事が発覚したのだという。やっと別れさせヤレヤレと思う頃、男が病気で入院した。
せっせと通う病室にある日別の女がおり、りんごの皮を剥いていた。問い詰めればその女もまた長年の愛人であったのだ。
「私はいない方がいいの?」
そう問いかける彼女に返答しない男。M子は病室をとび出し、今度こそ男との別れを決意したのだという。

ソニー・クリスは私にとってジャッキー・マクリーンと並ぶアルトのヒーローだ。この二人にとってのヒーローは多分チャーリー・パーカーだった。今パーカーを日常的に聴く人が果たしてどれだけいるだろう。パーカーが残した音源の殆どが、時代が古いせいで音が悪すぎる。残念だが音の悪い音楽鑑賞は苦行に過ぎない。

ジャッキー・マクリーンに比べると、ソニー・クリスはどうも不当に扱われてきた。曰く「うるさい、軽い、下品だ」。それもこれも、上手さ故の謂れ無き誹謗である。確かにジャッキー・マクリーンのアルト、ジャズっぽいと言っていいだろう。それに比べて、ソニー・クリスの音はどちらかと言えば溌剌としている。あっけらかんとし過ぎ、雰囲気を壊していると言いたいのも分からなくはない。「天童よしみブルースを歌う」的な感じか。
だが楽器がよく鳴っているという点でもテクニックという点でも、まさっているのは明らかにソニー・クリスだ。文句を言う前にぜひ本作を聴いてほしい。晩年のせいかソニー・クリス、吹き過ぎず終始演奏が落ち着いている。言い辛いけれども、アルバム単位で考えた時、ジャッキー・マクリーンは本作を超える盤を持たない。

ところで病室をとび出したあとのM子、前の夫と娘それに孫との暮らしを始めたらしい。別れた男とはその後、時々テニスをするだけの関係になったという。しかしながら、これが彼女の最終形であると私は必ずしも思えずにいる。