『布団部屋』 | 温泉と下町散歩と酒と読書のJAZZな平生

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人生の事をしみじみ噛み締め出す歳は人それぞれやろが、ワテもそないな歳になったんで記し始めました。過去を顧みると未来が覗けます。
基本、前段が日記で後段に考えを綴っとるんで、後段を読まれ何かしらの“発見”があれば嬉しゅうございます。

今朝も7時半に起き、朝食は昨夜スーパーで40%割引やったカルビ丼。デザートはニュージーランド産キウイ2個。

ギル・エヴァンスのアルバム「時の歩廊」をレコードで聴き、アート・ペッパーーの演奏をユーチューブで聴いた。

風呂に小一時間浸り、95歳まで生きるには夫婦で2千万円の蓄えが必要と試算した金融審議会の報告を考えとった。これってもしかして消費税上げてその分を充ててやるからちゅう誘い水?消費税増税したらごっつ景気減速するんは明らかなのに。

雨降り出しとるさかい歩いて20分以内で着ける所にしよと、昼食はごっつ久し振りに日暮里繊維街にある相変わらず内外装とも昭和な雰囲気の「ニューマルヤ」。頼んだのポークライスで700円也。ワテがここで食うの洋風炒飯云うた方がええポークライスないしハンバーグステーキになるんやが、今日はゴールデンカレーを注文しとる方多かったがな。

スーパーで食料買うて帰宅。

筋トレ30分し、りんごジュース飲んだ。

「絢爛たる一族 ~華と乱~」第19話をギャオで見た。

ビリー・ハーパー→デイヴ・コーズ→ジョー・ロヴァ―ノ→アレックス・テリエとサックス演奏をユーチューブで聴いた。

 

 

宮部みゆきの「あやし」を読み出して、第三話迄来たが、その中から『布団部屋』。

江戸のお店で働く奉公人の話やが、人の恨みこそ恐ろしいもんですなあ。怨念は果てる事無いねん。

物語は、姉おさとの後を継いで奉公に入った妹おゆうが経験する恐怖と死してなお妹を守る健気な姉を描いとるんや。けど、悪に加担した有能なお光の物語でもあり、オウム真理教事件を想起したがな。

深川門前町の酒屋兼子屋は、初代が店を興してから105年経つ間に七代目迄数えるに至っとった。代々の主人が短命で知られとったんや。しかも、跡継ぎとならぬ男はまだまだ子供の内に亡くなってまう。女は丈夫に育つのにや。

また、兼子屋は奉公人への躾がきっつい事でも知られとった。それでも奉公人が逃げ出したり不祥事を起こしたりした事は七代目迄嘗て一度もあったためしがないんや。きっつい分、給金を弾んでくれるちゅう事はあらへん。ただ単にきっつい。

それでも奉公人は実によう働き、不満も云わず揉め事も起こさぬ。

そやから、門前町辺りの商人は不思議がり羨ましがっとった。

ところが、そこの16歳の女中おさとが馴染みの湯屋に駆け込んで終い湯使うて帰る途次、突然夥しい鼻血出してしもて頓死してもうた。

おさとは11歳の時に子守奉公しに入った気立て優しい働き者やったのに。

その半年後、11歳になったおゆうが給金前借りしとった姉おさとの代わりに奉公に上がったんや。

姉を慕っとったおゆうは懸命に働き、一月も経つと一通りの仕事を覚えとった。

ところが、この店には奇妙な習わしがあんねん。新入りの奉公人は北東の角にある四畳半の薄暗い布団部屋に一人で一晩寝る事を求められますんや。その夜は女中頭のお光が部屋の廊下の唐紙の前に座って逃げ出さんよう番するんや。

お光ちゅうのは、43歳の身体も頑丈なら気性も強く肝が据わった女中の鑑のような女で、主人夫婦は殊の外彼女を頼りにしとった。

そして、おゆうもまた奥の布団部屋で過ごす夜を迎えたがな。

暗闇の中、おゆうは横たわり姉の匂いが染み付いた夜着を被っとると、背後から得体の知れぬ胸が悪くなる臭いもんが迫って来よるが、おさとの魂が現れて妹を守り抜きますんや。

目覚めたら唐紙の外のお光から声掛けされる。お光の睨んだ眼は一睡もとらんが如く真っ赤に血走っとった。

その日の昼過ぎ、お光はおゆうを蔵に呼び戸を閉め切り、兼子屋の秘密を打ち明けた。助けてもらいたくてな。

[兼子屋は祟られているのだと、お光は語り始めた。

「このお店は、今の旦那さまで七代目になりなさる。立派なお店だ。だけれど、遠い昔、初代の旦那さまがこのお店をつくるために、ある男を殺めて、その亡骸を隠した。たぶん、お金のためだろう。あたしも詳しいことは知らない」

殺された者の魂魄は、恨みを呑んでこの世に残り、彼の血の上に築きあげられた兼子屋に憑いた。兼子屋の主人が代々早死になるのもそのせいだという。

「だけれど、この家に憑いて祟っているものは、そのうちに、旦那さまの命を縮めるだけではおさまらなくなった。それがこの世に形をもってとどまるためには、生きた人のたましいを食らわなくちゃならないんだ。ちょうどあたしたちが、ご飯を食べなければ生きていられないのと同じにね。だから、そのために、まず奉公人のひとりの身体に乗り移って、家のなかに入り込み、ほかの奉公人のたましいを抜き取るようになった」]

死して怨念となったもんに、今はお光が乗り移られとんねん。二十歳で歴代一番若い女中頭となり、その出世を誇り、仲間の奉公人たちを見下して憚らぬ奢りの心がつけ込まれる隙をつくったんや。それでお光、奉公人の魂を抜いとったんや。

[「たましいを抜かれると、人は文句を言わなくなる」と、お光は言った。

「怠け心もなくなるし、欲張りでもなくなる。遊びたいという子供の心もなくなる。家が恋しいこともなくなる。ちょっと見には普通の人間のように見えるし、普通の人間のように振る舞うけど、中身は空っぽなんだ。木偶人形みたいなものさ。だからこそ、兼子屋の奉公人はみんな、よそのお店が目を見張るような働き者になることができるんだ。病気にもならず、怪我もしない。なにしろ、半分は生き物じゃなくなっているんだからね」

そしてお店は繁盛する。世間様は、兼子屋の奉公人に対する躾は大したものだと感心する。]

人殺めた初代は兎も角、代を重ねれば重ねる程、主人達は繁盛や評判を心の底から楽しめん。そりゃそうや、普通の人の半分位の歳で命もぎとられるのを承知しとるんやさかい。いつお迎えが来るかと突然の死を恐れながら日々生きねばならん。気の休まる時無いんや。それこそが兼子屋の被っとる本当の祟りやった。

[「あたし、昨夜あの布団部屋で、姉さんの夢を見てました」と、おゆうは言った。

「そうかい」

お光はうなずくと、ちょっと考え込むように首をかしげてから、ごめんよと呟いた。

「実はね、あたしに憑いている悪いものも、あんたの姉さんのたましいだけだけは、どうしても抜くことができなかったんだ。ここへ奉公にきてもう五年も経っていたのに、何度布団部屋に寝かせても、どうしても駄目だったんだ。きっとおさとが、妹のあんたや、離れて暮らしている家族のことを、ずっと大切に思っていたからだろうね」

おゆうは姉のことを思って胸がつまった。

「姉さんは、あたしには母さんみたいなもんでした」と、思わず言った。

「そうかい。おさとは、離れていても、片時だってあんたのことを忘れなかったんだろう。だから、隙がなかったんだね」

お光は納得したように目を閉じた。そのまま、しばらくじっとしていた。

「だけどね、そのせいで、おさとはあんな死に方をすることになっちまったんだ。あれはね、取り殺されたんだよ。あたしはね、もうそんなことはたくさんだと思うんだよ」]

その夜の丑三つ時、もうそんなことはたくさんだと思うお光に云われた通り、おゆうは布団部屋に榊と塩を投げ入れた。

明くる朝、おゆうは暇を出され、兼子屋を離れた。

それから十日程して兼子屋は火事になり、主人は焼け死に屋敷も店も跡形もなく焼け落ちてまう。火元のはっきりせん火事やった。

その数日前、お光は出奔して姿を消しとった。

暫くして兼子屋の建っとった地所を掘ってみたところ、鬼門北東の角のところから古い人の骨が出て来た。

おゆうは別のお店に奉公が決まった。兼子屋の事は程なく忘れてもうた。姉の夜着の事は思い出すけれど。

ワテは読み終えて、やるせないと思うた。

おさとは、隙が無かったにもかかわらず結局は殺されてもうた。

おさとのように取り殺される方がええのか、それとも魂奪われ半分は生き物じゃなくなっても行きとる方がええのか。困惑して眉ひそめたがな。