『名もなき毒』 | 温泉と下町散歩と酒と読書のJAZZな平生

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人生の事をしみじみ噛み締め出す歳は人それぞれやろが、ワテもそないな歳になったんで記し始めました。過去を顧みると未来が覗けます。
基本、前段が日記で後段に考えを綴っとるんで、後段を読まれ何かしらの“発見”があれば嬉しゅうございます。

今朝は7時半に起き、朝食に山形庄内産ひとめぼれ米でご飯炊き、くめ納豆、海苔で二膳。デザートはフィリピン産バナナ2本。

福居良→デューク・ジョーダン→トミー・フラナガン→ハンク・ジョーンズとピアノ演奏をユーチューブで聴いた。

友人達にメール送付した。

昼食は千束「ソージュ」に行き、初めて魚ランチ注文した。魚介のアクアパッツァにスープ、サラダ、ライス、コーヒーが付き1000円也。

満足して店出て、スーパーで食料買うて一旦帰宅。

このところ土曜図書館やなく日曜図書館になってしまっとると思いながら、ゆいの森あらかわへ行って『名もなき毒』を読了して帰宅した。

筋トレを小一時間した。

夕食には群馬産鶏肉、茨城産ピーマンと人参、新潟産舞茸をタジン鍋で蒸し、ご飯と食うた。デザートは和歌山産すもも3個。

カーメン・マクレエのアルバム「ブック・オブ・バラーズ」をCDで繰り返し聴いた。

「風中の縁」第20話をギャオで見た。

ラジオ「テイスト・オブ・ジャズ」を聴いた。

 

 

途中で杉村三郎もんの前作「誰か」を再読したりして、今日『名もなき毒』を読了した。

原田いずみが起こした人質事件の現場である家に独り泊ろうとする杉村三郎と娘と孫が寝るのを待って訪れた義父今多喜親との場面等深みあって感心したが、まず『名もなき毒』ちゅうタイトルが小憎らしいてええわ。この物語に出て来るシックハウス症候群や宅地土壌汚染での有害物質ばかりが毒やあらへん。著者は書く、人間こそが毒と。

悪意に向き合わなならん身の上の方だけやなく、人間関係に不安感じとる人も心つかまれるやろ。

お人好しな杉村三郎が探偵ぽい事しとるのがどうもなと思うた前作やが、二作目でお節介やけど節度ある彼を友にしたいと切に思うたわ。彼を愛娘の婿に認めた今多喜親の眼力は大したもんや。けれど、誰にでも優しくしお節介過ぎるのが夫婦喧嘩の種になりますんや。

この物語では今多コンツェルン会長の娘婿でコンツェルンの広報室に勤務する杉村三郎が二つの事件に係わりますんや。杉村三郎は事件を呼び寄せる男なんですわ。

その一つが、杉村が在籍しとる社内報の編集部アルバイト原田いづみの起こすもんや。原田いづみは仕事がちっとも出来ぬばかりか平気の平左で嘘吐くわ、咎められれば泣き喚くわで、口の悪い編集長でさえもタジタジ。もう振り回されとうないと広報室の総意でいずみを解雇するんや。

ところが、いづみは解雇された腹いせに、広報室にそして遂には杉村に復讐しよんねん。

被害者振る原田いずみから訴訟を起こすという手紙を今多会長に送り付けられた事から、杉村三郎は会長に命じられその対処に当たらなならん事になんねん。

しかし案山子、嘘を幾重にも重ねて生きとる原田いずみの撒き散らす悪意がごっつ怖いねん。幼稚ないずみは悪意で一杯になった心で堅く殻を閉ざしとるんや。
どないな事やったかちゅうと、三日間連続待ちぼうけなどまだしもなんや。給湯室に忍び込み冷蔵庫のミネラルウォーターに睡眠薬を混入させ、部員や美智香をまるで冷凍室の鮪のようにごろごろ倒した。美智香がひょっこり編集部を訪ねて来た時の事や。
いずみの父親が刑事に伴われ広報室にやって来て、娘が会社に迷惑をかけたちゅうんで深く謝罪するんやけど、両親はサイコパスいずみと絶縁し札幌へ逃げた経緯を話すんや。

原田いずみは、成績のええ友達を妬みその子の顔を物差しで叩いて8針も縫う怪我させたり、展覧会で優秀賞をもらった友達の絵をその子の目の前で破ったりしとった子供やった。そして、兄の結婚式披露宴では大嘘吐くんやが、それが何とも凄いもんや。祝いの挨拶に、実は子供の時から兄は自分にずっと性的な行為を強要し、妊娠中絶させたと云うねん。
他者の喜ぶ顔、幸せをいずみは許せないんや。
その毒に蝕まれ、兄の新妻は半年後に自殺してまう。

そもそも、原田いずみの如く他人の前で隠さず涙流す女にはごっつ注意せなならん。ワテの経験や。

もう一つは青酸カリによる連続毒殺事件。杉村三郎が毒殺事件の方になんで関わったかちゅうと、原田いずみの正体に近付く為調べて廻っとる内、以前に原田いずみを調査したちゅう元刑事の探偵北見一郎に会って話を聞きますんやが、そこで毒殺事件四人目の被害者である定年退職者古屋明俊の孫美智香と知り合うたからや。美智香は北見に犯人捜しして欲しいと来とった。

美智香の外資系証券会社でファイナンシャルプランナーしとる母暁子は、警察に連続毒殺事件に便乗して父殺した容疑者として疑われとったんや。古屋明俊はコンビニ「ララパセリ」で買うた紙パック入りウーロン茶飲み亡くなったんやが、その「ララパセリ」の店長萩原弘と以前付き合っとって、店に犯行当日の朝立ち寄っとったからや。それに父明俊は会社の後輩の未亡人奈良和子を愛し、彼女に遺言状を書き遺産残してやるつもりやったから、娘暁子と揉めとったんや。

相続問題が絡むと人間関係ややこしくなるわな。

暁子は娘美智香にも疑念抱かれるようになる。

容疑者の一人奈良和子が、遺書を残しアパートのベランダから飛び降り自殺する。

けど、暁子も和子も犯人やあらへん。

古屋明俊が死亡した原因つくった犯人は、親に捨てられほとんど寝たきりの祖母と暮らすコンビニ店員、喘息患う外立研治なんや。善良にしか見えん外立研治なんや。

研治よりもいずみの方がよっぽど怖さがある。強烈や。

ところが原田いずみを、北見一郎は普通と云うんや。今この世の中では普通ちゅうのは生きにくく、他を生かしにくいと同義語で、何もないちゅう意味でもあると云うんや。普通ちゅうのは、つまらなくて退屈で、空虚だと云うねん。

北見一郎の実感は正しいかもしれん。日本人の民度が落ちとるんやろか?怖い話や。

そして、杉村三郎は義父や北見一郎に気を付けろと云われとったのに、原田いずみを甘く見とった。

杉村三郎と妻菜穂子は、愛娘桃子を、自宅に踏み込まれたいずみに人質に取られてまうんや。

[「娘を放してやってください」

私は懇願した。妻が私を押しやろうともがいている。弱々しいが断固とした力で。

「私が許せないのなら、私を殺せばいい。娘は関係ないんだ。お願いします」

「どうしようかなぁ」

また笑っている。

「あたしは別に、もうどうなってもいいの。どうせ、いつかは警察に捕まるし。でる、あんたたちに良い思いばっかりさせておくわけにはいかないのよね」

妻は私にすがりついてきた。

「幸せなんてね、あっけなく壊れちゃうものなのよ。ほ~んとうにそうなの。でもあんたたち、それを知らないでしょ。身に沁みないと、わかんないでしょ?」

突然、彼女の声が怒りに炸裂した。

「だから、あたしがわからせてやるって言ってるのよ!」

いきなり仕切りのドアがどかんと鳴った。

原田いずみが蹴りつけたのだ。

あの女はドアのすぐ内側にいる。桃子は?桃子はどうなっている?

私は妻の腕を引き剥がすと、コートの裾で床をするようにして、膝立ちでドアに近付いた。頬が触れそうなほどの距離にまで詰めた。

「警察には報せていません。あなたのご希望のとおりにします。ですから―」

「だったら、まずお金ね」

「わかりました。いくらですか」

「あんたたちの全財産」

言ってから、彼女は甲高く笑った。

「な~んてね。嘘よ。いくらお金を巻き上げたって、あんたらには効き目ないもんね」

「お金は用意します。ほかには?」

「謝りなさいよ」

「あなたに謝罪すればいいんですね?あなたを解雇したことをですか?」

「バカ言ってんじゃないわよ!」

罵声がすぐそばで聞こえた。原田いづみもドアに張りついているのだ。

「何から何まで全部謝れって言ってるのよ。あんたたちが存在してることを謝りなさいよ。何もわかってないのね、あんた」

いい加減にしなさいよ。

誰かが呟いた。美智香だった。ドアを睨んで仁王立ちしている。

「ふざけんじゃないわよ」

今度は呟きではなく、ちゃんと聞こえた。私は恐怖で気が遠くなりかけた。いけない。原田いづみを刺激してはいけない。

と、そのとき、

壁際にいた外立君が足音もなく前に出てきた。美智香の脇を通り過ぎるとき、そっと彼女の顔をのぞいて、制するように首を振った。そのまま妻も追い越し、私のそばまでやってきた。

彼の目はドアを見ていた。

「そこにいる人、出てきてください」

こんにちはと声をかけるようにさりげなく、原田いづみに呼びかけた。

ドアに隔てられていても、私には彼女の当惑が感じられた。新しい人物の声に、彼女が身構えるのもわかった。

「あんた誰よ」

外立君は、両手をきちんと体の脇につけ、姿勢正しく立っていた。表情は穏やかで、ほんの少し頭を左にかしげている。

そして、原田いづみの質問に答えた。

「僕は人殺しです」

怒りに燃えていた美智香の瞳の底から、光が消えた。驚きがそれにとって代わる。彼女のくちびるが動いて空を噛んだ。

私は外立君の横顔を見ていた。妻は両手を床につき、倒れそうな身体を支え、外立君を仰いでいた。顎の先から涙が落ちた。

「僕は人殺しなんです」

外立君はドアに話しかける。彼と、ドアと、ドアの向こうの女、世界に存在するのはその三つだけになっていた。我々は背景に退いていた。

「幸せがあっけなく壊れるものだってこと、僕は知ってます。壊したことがあるからです」

淡々と、ほとんど抑揚のない、それでいて耳には優しい声音が響く。

「あんた、誰なのよ。何言ってんの?」

原田いづみの声が跳ね上がり、調子を外した。

「僕、青酸カリを使って人を殺しました」

外立君の言葉に美智香が動きを取り戻した。傍目にもはっきりわかるほど、ぎくりと強張って身じろぎした。私は目だけで彼女を捕らえ、動くなとサインを送った。動かず、遮らず、そのままでいてくれ。

「それをしたときは、正しいことのような気がしていました」

僕はすごく怒っていたから。

外立君は続ける。「世の中のすへてに腹が立って、自分にはこういうことをする権利があると思ってました。迷ったりなんかしなかった」

誰でもよかった。誰が死のうが気にしなかった。だって自分はこんなに苦しんでいるんだから。誰かを同じ目に遭わせてたっていいじゃないか。どうしていけないんだ?

「でも、僕は間違っていました」

妻の腕が力尽き、ぐったりと床に伏してしまいそうになる。それを見て、美智香がさっとそばに寄り、先ほどと同じように抱きしめた。が、今度は美智香が妻を抱いているだけではなく、美智香も妻にすがりついていた。

それに気づいたのか、妻も美智香の身体に腕を回した。二人は、頭上の嵐に怯える幼い姉妹のように固く抱き合っていた。

「人の命を奪ったって、何にもなりませんでした僕はちっとも、気が済まなかった」

外立君は、話しかけている相手が目の前にいるかのように、かぶりを振ってみせている。

「僕は勘違いをしていた。見当違いのことをやっただけでした」

やめた方がいいです―と、言った。

「あなたが何を怒っているのか、杉村さんにどんな恨みがあるのか、僕にはわかりません。でも、こんなことをしても無駄だってことは、よくわかります。やめた方がいいです」

外立君はうなだれた。両肩が下がった。その立ち姿は、ほんのしばらく前に見た萩原社長の姿によく似ていた。おまえが、おまえさんが。そう呟いて、肩を落とした。あの姿にそっくりだった。

「杉村さんのお嬢さんを傷つけても、杉村さんを苦しめても、あなたにとっては何にもならないです。ただ、あなたも僕みたいな気持ちになるだけです。必ずなります。そうなったらもう、何をしたって埋め合わせはつかなくなります」

僕は人殺しですと、外立君はもう一度繰り返した。

「人殺しだから、人殺しがどんなに空しいか、わかるんです。あなたはそうなっちゃいけません。まだ間に合います。やめてください」

お願いします。萩原社長にバアちゃんのことを頼んだときのように、外立君は頭を下げた。あまりに深く身を折ったので、よろけてたたらを踏んだ。]

結局、桃子は売り出し中のジャーナリスト秋山省吾の機転で無事救出される。

作品に描かれとるのは、悪意に固まった原田いずみが起こすトラブルの毒、それと無差別毒殺事件の犯人達の毒だけやない。登場人物はそれぞれの毒を持っとるのが分かる。杉村三郎でさえもや。

世の中には明らかな毒もある。また受け取りようによっては毒なもんはそこここにあるもんや。

ワテも勤めとった会社の或る先輩に悪意ある毒を盛られた事ある。

負は連鎖すると云われるが、人の毒もや。そやからその毒に感染せんように注意して暮らさなならん。また、人の毒にどない対処するか考えとかなならん。

この物語には、人格崩壊しとる人物、現実に負けてもうた人物、現実をしっかり見ようと努める人物、心優しい人物などが登場するが、新たなキャラクター探偵北見一郎と萩原運送萩原社長がええんや。彼等の存在が世の中捨てたもんやないと思わせる。

しかし北見一郎は或る思い残して亡くなってまう。でも読み終え思うんや。必ず杉村三郎が引き継ぐと。