ZOCの真情(2) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日10月16日は、2019年、米ワシントン州シアトル公演@The Paramount Theatreが行われた日DEATH。

ZOCの楽曲は、すべて大森靖子によって創られているが、その「思想」ないし「意志」はメンバーに共有されていると思われる。
それは、大森靖子が「女性が現代の日本で生きること」を対象化し、女性性を職業化した「アイドル」という存在に自ら「共犯者」として参加しているからである。
このテーマは、かつてトップアイドルの座に君臨し、今や世代交代して全く別のメンバー構成となっているAKB48やモーニング娘。、現在のトップアイドルである乃木坂46、日の出の勢いの日向坂46、成長してしまったももクロ、そして日本の「アイドル界」を離れているように見えるBABYMETALにも、実は共通する大問題である。
なぜかといえば、オンラインライブが主流になる中で、それぞれのグループが持つテーマ性=「魂」もしくは「神」が、ネットを突き抜けて視聴者の心を動かしうるかどうかが、今後の「アイドル」という業態の商品価値のカギになるからである。
ぼくとしては、『別冊カドカワ』No.830の考察をする前に、補助線として、どうしてもこの話をしておかねばならないと思うのだ。
前回書いたように、ZOCの楽曲の歌詞は自己言及的である。
つまり、ファンを楽しませ、励ます楽曲=アイドルソングを歌っているのではなく、そういうアイドルを演じている気持ちを歌っている。別の言葉で言えば、ZOCはアイドルではなく、メタアイドルなのだ。
非常に微妙なのだが、歌詞をメンバーが書いているBiSHや、もう辞めちゃったけど、あのちゃんの特異なキャラクターを全面に出していたゆるめるモ!の楽曲が、ストレートな心情表現で、過激なパフォーマンスの中に、「純情」が立ち上がってくるしくみになっているのと比べると、ZOCの楽曲はもっと醒めているというか、抽象性をとことん排除して、現実社会と切り結ぼうとする「意志」を感じる。


例えば、ZOCのセカンドシングル「断捨離彼氏」がそうだ。

https://www.youtube.com/watch?v=O59q5UB6B38

―引用―
「断捨離彼氏」作詞・作曲大森靖子
私のこと好きな人
私が好きな人なら
どっちがいいって言うじゃない? 
どっちがいいって言うじゃない?
どっちがいいって言うじゃない? 
両方ないと無理!無理!無理!    

そんな彼氏別れちゃいなよぉ
気が向いたら
そんな彼氏別れちゃいなよぉ
運命とか
そんな彼氏別れちゃいなよぉ
気のせいだよ
そんな彼氏別れちゃいなよぉ
そんな彼氏別れちゃいなよぉ

ああお金も時間も今更戻らない
ああ愛し尽くしても 愛されないから

だんだん忘れて断捨離彼氏
だんだん記憶がDONE DONE(DONE DONE)
だんだん男子全員今キモイ
だんだん気持ちがDONE DONE(DONE DONE)
愛され人生!Please
(中略)
気持ちよくなってあげてるの 手軽に夢中になれるもの
恋愛なんて泣いて叫んでもサマになるから人生っぽいし
ザマァねえな おまえなんか信じてあげる私だったら
かわいくない?って思えたし アドレナリン出て楽しかった!!!
でもそれだけ。
(後略)
―引用終わり―
前回書いたように、ある少女が、労働者としての能力が問われる一般的な職業ではなく、アイドルという職業を選ぶのは、「愛されること」が仕事だった子ども時代の延長だからである。
アイドルが恋愛禁止なのは、アイドルの「愛」がファンのための商品だからだ。商品をプライベートに「タダで」横流ししては商売にならない。
特に握手会や「推し」の数を重視するグループにとっては、彼氏が発覚したらアイドルは辞めなければならないというのがルールになっている。
恋愛禁止でないグループでは、疑似恋愛的な訴求はせず、ファンは「親目線」で「成長」を応援してくださいというスタンスをとっている。それでも、ファンはメンバーが幸せになってほしいと願っているはずで、ドロドロの恋愛に陥るのは許せないだろう。これはアイドルであるための最低条件である。
ところが、この歌はまさにそのドロドロの恋愛の歌である。
MVでは、男の眼から見てもクズ野郎としか思えない若い男が登場し、メンバーの一人である主人公を痛ぶる。
そのダメンズに惹かれてしまい、「ああお金も時間も今更戻らない」「ああ愛し尽くしても愛されないから」というのはまるで演歌だが、その理由として「おまえなんか信じてあげる私だったらかわいくない?って思えた」とか、「恋愛なんて泣いて叫んでもサマになるから人生っぽいし」と思うのは、麻薬のように「愛」を欲していたからとも言えるだろう
これが、アイドルに似つかわしくないかといえば、そうでもない。
「愛」を職業にしたアイドル志願の少女は、そもそも「愛」に関して、意識/無意識を問わず、幻想を抱きがちだからだ。
その挙句、「だんだん男子全員今キモイ」「だんだん気持ちがDONE DONE(DONE DONE)」というのは、幻想が崩壊し、「愛」を使い果たしてしまったということだろう。
「愛」を信じられなくなったアイドルは、廃業するしかない。
だから、「ザマァねえな」と自嘲しながらも、「愛され人生!Please」と叫ぶのは、リセットを求める悲痛な心情なのである。
もちろん、これは大森靖子による創作であって、実話ではない。アイドルがダメ男に惚れちゃうとどうなるかという、いわば思考実験である。大森靖子自体は、夫ピエール瀧と男児に恵まれ、今のところは、多忙ながらも幸せな音楽一家を構えているように見える。
しかし、MVを見る限り、メンバーはパンクっぽい曲調と歌詞の世界観を過激に演じることで「不良っぽさ」を表現しているように見える。おそらく、大森靖子が構想し、ぼくが今テキレジしたような「メタアイドル」レベルまでは理解していないだろう。
そんなことより、問題は、これをファンがどう見ればいいのか、どう共感すればいいのかということだ。
〇〇ちゃんがカワイイとか、ヒドイ男に痛ぶられて可哀そうとかいうレベルではなく、「アイドルの恋愛」をメタレベルで表現している楽曲に関して、ファンはどう反応すればいいのか。
これが、ZOCのセカンドシングルなのだ。
今年4月に配信された「SHINE MAGIC/ヒアルロンリーガール」は、もっと深い。
「SHINE MAGIC」は「シネ」という発音が「死ね」にかかっており、知る人ぞ知るSM専門アダルトビデオ会社「CINE MAGIC」にもかかっていて、さすがのぼくでもベビメタブログで考察するのはアレなので、「ヒアルロンリーガール」だけ分析してみる。

https://www.youtube.com/watch?v=YUGOXBgl87I

―引用―
「ヒアルロンリーガール」作詞・作曲大森靖子
君を注入してかわいくなりたい
ヒアルロン ヒアルロン ヒアルロンリーガール

お姫様何人?待って 比べちゃってきりがない
私のお城に なんで? 知らないひといるの
夢の国なのに 夢が覚めてくのよ
スニーカー履いて 歩く速度合わさなきゃ
自立じゃないとか舐めてんの?
君が治療費くれはしないから

ヒアルロンリー ロンリーガール
計算どおり 痛いだけよ 鬱になんかなってあげない
キライキラキラ気になってきても
ヒアルロンリー ロンリーガール
おかげさまで今日もかわいい
死にたい言わない主義のロンリーガール
(後略)
―引用終わり―
不思議ちゃんとかメンヘラとか、情緒不安定な少女、いわゆる陰キャラも、「愛されるアイドル」の一つのステレオタイプなのが、日本のアイドル文化である。
元ゆるめるモ!のあのちゃん(現:ano)はその典型だった。
あそこまでいかなくても、無口であるとか、マニアックなアニメ/同人誌ファンというキャラクターは、AKB48や乃木坂46や欅坂46にもいた。
逆に言えば、資質的には陰キャラな数人も、グループ全体の明るさによってアザトカワイイ対応をしてしまうのが日向坂46の凄いところだ。
もっとも、アイドルグループで陰キャラが人気メンバーになりうるのは、「かわいい」ことが絶対条件である。だから、この曲には「自立」「治療費」「鬱」「死にたい」「さみしい子」「闇」といった言葉と並んで、整形に用いるヒアルロン酸と「孤独」を意味するロンリーが合体し、「ヒアルロンリーガール」というフレーズが連呼され、MVではメンバーが西洋のお姫様のような衣装を着て、ベルサイユ宮殿のような部屋にいるという二重三重の相対化、脱構築が行われている。
実際の引きこもりの部屋は、ゴミや衣服や布団類が山積して、足の踏み場もないことが多い。
引きこもりの子が、整形で「かわいく」なってアイドルになることはほとんどないだろう。外出しないからスカウトされることもない。そもそも動かないからぽっちゃり体型である。
だが、夢想の中ではあり得る。いや、先述したように、普通に働ける能力が自分にないことはよくわかっているから、仕事としてイメージできるのはアイドルしかないのかもしれない。
親が食事を用意し、学校や仕事に行かなくても放っておいてくれる「愛」でかろうじて生きている少女にとって、「かわいく」なって不特定多数の他者に「愛」を与える「愛される職業」=アイドルになることは、夢のような希望かもしれない。
しかし、そういうメンヘラのアイドル志願の少女の心情を歌った楽曲を、ファンはどう楽しめばいいのだろう。

もちろん批判しているのではない。

アイドル界におけるメタアイドルの意義について、次回答えを示す。
(つづく)