ZOCの真情(1) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日10月15日は、2015年、World Tour 2015 in Japan@Zepp Diver Cityが行われ、2017年には巨大キツネ祭り@大阪城ホールが行われ、2019年、米オレゴン州ポートランド公演@Roseland Theaterが行われた日DEATH。

先日、日本のアイドル/歌謡曲/ポップスの父、作曲家の筒美京平氏が亡くなった。
筒美氏の業績については、8月18日にアップした「10年のキセキ(106)」で触れた。

https://ameblo.jp/jaytc/entry-12618720043.html
その時には80歳でご健在であると書いたが、虫の知らせだったのかもしれない。
あらためて要約すると、筒美氏が作曲した楽曲の総売上枚数は7,560万2000枚で、作曲家歴代1位。
オリコンが集計を開始した1968年から約50年にわたり、ほぼ毎年作品がチャートインしており、ヒットチャートランクインは500曲以上、そのうちチャート1位は39曲、TOP3以内が約100曲、TOP10入りした作品は200曲を超えている。


1960年代にはヴィレッジ・シンガーズ、ザ・ジャガーズ、オックス、ブルーコメッツといったグループサウンズ。
1970年代には野口五郎、西城秀樹、郷ひろみ、南沙織、麻丘めぐみ、浅田美代子。スパイダース解散後の堺正章、井上順。
1980年代には近藤真彦、田原俊彦、少年隊、SMAP、TOKIOといったジャニーズ系男性グループアイドル、河合奈保子、小泉今日子、松本伊代、早見優、中山美穂、荻野目洋子、本田美奈子といった女性アイドルのほとんどが、筒美京平作曲作品を歌ってスターになっていった。
筒美京平の楽曲は、様々な世界の音楽的要素が時代に応じて取り入れられていた。
初期のグループサウンズに提供した楽曲にはカレッジフォークやビートルズっぽい要素がある。いしだあゆみの「ブルーライトヨコハマ」も、よく聴くとリズムはリンゴ・スターだ。
尾崎紀世彦の「また逢う日まで」や平山三紀「真夏の出来事」はサンレモ調。
浅田美代子「赤い風船」や太田裕美「木綿のハンカチーフ」はアコースティックなフォーク調。
郷ひろみ「男の子女の子」や麻丘めぐみ「私の彼は左利き」は合いの手入りの明るいロックンロール。
野口五郎の「青いリンゴ」、西城秀樹「恋する季節」、桑名正博の「セクシャルバイオレットNo.1」、近藤真彦「スニーカーぶる〜す」、本田美奈子「1986年のマリリン」などは、イントロやブリッジに“泣き”のエレキギターが多用された、いわゆるロック歌謡。
スリー・ディグリーズの「にがい涙」、リンリン・ランラン「恋のインディアン人形」、近藤真彦「ギンギラギンにさりげなく」、岩崎博美「シンデレラ・ハネムーン」、田原俊彦「抱きしめてTONIGHT」などは、ペンタトニック・スケール&ディスコ調。
庄野真代の「飛んでイスタンブール」やジュディ・オング「魅せられて」はアジアン・エスニック。
小泉今日子「ヤマトナデシコ七変化」やC-C-B「Romanticが止まらない」はテクノ。
大橋純子の「たそがれマイ・ラブ」や稲垣潤一「ドラマティック・レイン」や小沢健二の「強い気持ち・強い愛」はシティポップ。
一人の作曲家とは思えないほど、多様な音楽性が「融合」されていたが、“モロパクリ”ではなく、筒美京平氏の楽曲は、どれもくっきりしたメロディラインとキャッチーなサビ、さらに歌詞の間を埋める印象的なブリッジのフレーズが特徴で、都会的なのだが、どこかナイーヴで切ない印象を与え、歌詞の心象風景がドラマティックに立ち現れてくる「THE歌謡曲」だった。
BABYMETALの「アイドルとメタルの融合」というコンセプトは、こうした職人芸的な日本のアイドル/歌謡曲の土壌がなければ生まれなかった。
テクノ、ディスコ調、アジアン・エスニック、シティポップ、そしてパワーメタルという『METAL GALAXY』収録楽曲の多彩さも、実は今述べた筒美氏の楽曲制作の“流儀”に則っていることがわかる。
筒美京平氏がいなかったら、J-POPという独自のジャンルは存在しなかった。
ご冥福を祈る。

さて、筒美氏の逝去によって、2020年という年が、1989年と同じように、歴史のターニングポイントであるという印象はますます強まった。
「コロナ後のライブ」で述べたように、オンラインライブが視聴者にとって価値を持つかどうかは、デジタル技術による配信様式の革新もさることながら、そこに人と人とをつなげる「神」あるいは「魂」が込められているかどうかにかかっている。
BABYMETALが歩んできたこの10年間で、アイドルというジャンルは、日向坂46のような地上波テレビを主な媒体とするグループと、テレビに露出せず、ライブを主戦場とする「過激なアイドル」「ラウド系アイドル」に分化した。もっとも、テレビは秋元プロデュース系アイドルグループに寡占されているので、後者のグループはなかなか出演機会が得られないという状況で、やむなくそうなっているということかもしれない。
それゆえ、後者のうち、BABYMETALはメタル、PassCodeはエレクトロニコア、BiSHはパンク、ゆるめるモ!はハードコアといった音楽性で勝負し、それぞれファンがついているが、テレビに出てメジャーになることを熱望しながら、結果的に「過激なアイドル」の表現をしているグループもある。
そのひとつが2018年、シンガーソングライターの大森靖子がプロデューサー兼メンバー(共犯者)を務めるアイドルグループ、ZOCである。


現メンバーは以下のとおり。
ZOCの楽曲は自己言及的ないし、私小説的である。
デビューシングル「family name」の歌詞はこうなっている。

https://www.youtube.com/watch?v=IytBgF3UhP0
 

―引用―
「family name」作詞・作曲大森靖子
わけわかんないことでママが怒ってる
安定の不安定に 鍵をしめる
こんなのおかしいね なんで産んだの
手に届くもの全部投げ飛ばした
(中略)
family name 同じ呪いで
だからって光を諦めないよ
family name御構い無しだ
治安悪いままバグらせてこ
クッソ生きてやる
(後略)
―引用終わり―
一連目から状況が目に浮かぶ。母親に対する愛情の裏返しの嫌悪感でいっぱいになった思春期の少女が、家の中の目につくものを投げつけて暴れている。
テレビの中の、あるいはネットの中の幸せそうな他の家庭とはまるで違う自分の家。その象徴である母親が、幼児期のように自分をまるごと愛してくれない寂しさといら立ち。その家の苗字を名乗らねばならないことへの無力感。
だが、サビでは「光をあきらめないよ」「御構い無しだ」「クッソ生きてやる」と言っている。
無力感に打ちひしがれるのではなく、「治安悪いまま」「バグらせてこ」というように、怒りを光として、母親のようなクソつまらない人生ではなく、思う存分自分の人生を生きていく決意。
これは、「ヘドバンギャー!!」と同じく、少女の自立の歌なのだ。
このブログでは、2016年8月の「ギター女子」の項でちらりと触れたが、大森靖子はSU-METALより10歳年上の1987年9月生まれで、事務所やレーベルに所属せず、2011年からは自身の楽曲をバンド形式で演奏する4ピースバンド大森靖子&THEピンクトカレフでの活動を行っていた。夫は凛として時雨のピエール中野で、2015年にTHEピンクトカレフを解散し、第一子を産んでいる。


大森靖子の楽曲は、“絶対少女”という独自の世界観で構成されている。ぼくの見立てでは、マドンナやレディガガと同じく、「現代社会で女性として生きること」を対象化し、戦略的に採用している。その意味では、「引きこもり」を出発点とした吉澤佳代子の女性性の希薄さとは対照的と言える。
女性性を商品化する「アイドル」という存在は、大森靖子にとって大きなテーマになっており、「ZOC実験室」「イミテーションガール」「IDOL SONG」といった楽曲は、ライブにおけるZOCのレパートリーにもなっている。
その歌詞や言動を切実なものとして信奉する女性ファンは多く、完全セルフプロデュースの2人組アイドル「生ハムと焼うどん」の西井万理那と東理紗も、大森靖子を「師匠」としていた。
西井と東の決裂から「生ハムと焼うどん」が解散したあと、大森が西井のために新しいグループを作ることを約束していたことと、大森が選考委員を務めるミスiD(講談社)のアイドルグループ結成計画がとん挫したことから、2018年、大森自らがメンバーとなり、西井、ミスiD出身者とともにZOCが結成され、2020年3月には元アンジュルムの福田 花音が、巫まろとして加入した。
現メンバーは以下のとおり。
藍染 カレン(あいぞめ かれん、1997年9月生。2017年、ミスiD大郷剛賞を受賞)
香椎 かてぃ(かしい かてぃ、1998年10月生。 2016年、ミスiD大森靖子賞を受賞)
西井 万理那(にしい まりな、1997年8月生。元生ハムと焼うどん)
巫 まろ(かんなぎ まろ、1995年3月生。元アンジュルム福田花音。2020年3月加入)
大森 靖子(おおもり せいこ、1987年9月生。楽曲制作、プロデュース担当)
雅雀 り子(やちあ りこ、1995年11月生。2016年、「私。」(わたし)名義で、ミスiD2017を受賞。モデル時の芸名はriko。2020年10月正式加入し、衣装、振付担当)
「Zone of Control」は戦場における「支配下にある領域」という意味だが、「Zone Out of Control」は、「非支配領域」とも、「領域からの脱出をコントロールする」ともとれる。いずれにせよ、ZOCというグループ名には、大森の活動テーマである「孤独を孤立させない」という意味が含まれているらしい。
2020年はZOCにとって試練の年だった。
初期メンバーの兎凪 さやか(うなぎ さやか)が2019年12月に未成年飲酒により脱退。
コロナ禍でライブができない状況の中、児童虐待に関するNPOを設立するなど、グループの顔だった戦慄かなの(せんりつ かなの)が2020年7月に突如「卒業」し、ZOCは活動休止に追い込まれた。
だが、2020年8月30日、@JAM ONLINE FESTIVAL 2020で活動を再開し、2020年10月1日には中野サンプラザにて再始動ライブ「AGE OF ZOC」を開催、rikoが雅雀り子として正式加入した。
このライブでZOCがavex traxよりメジャーデビューすることが発表され、新曲「AGE OF ZOC」も披露された。また、大森が社長を務めるTOKYO PINKが所属事務所として新たに設立された。
要するにZOCは紆余曲折を経て、これから「来る」基盤を整えたわけだ。
大森は、ZOCにおける自らを「共犯者」と呼ぶ。
これは、ロック界と違って、アイドル界では「作詞家」「作曲家」「プロデューサー」は「〇〇先生」と呼ばれ、師弟関係や従属関係を示す記号だからであり、一人だけ10歳年上の子持ちであっても、自身がメンバーとして活動するところに、「アイドル」という存在を客観的に対象化しようとする戦略性を感じる。
それは、大森靖子が2017年にリリースした『kitixxxgaia』のリード曲で、MV公開され、ZOCのセトリにも入っている「IDOL SONG」の歌詞を見てもわかる。

https://www.youtube.com/watch?v=j7-BgTRuX28
―引用―
「IDOL SONG」作詞・作曲大森靖子、編曲ヒャダイン
ねえアイドルになりたい
すっごい愛をあげたい
このいのちの使い方を君に愛されたい
(アイドル自己紹介)
ねえアイドルになりたい
ずっとはわからないけど
幸せに似てるシャンプーの香りを見つけたの
(アイドル自己紹介)
歌で人の気持ち明るくできるように
きっと人生にくじけてる人がいると思うから
はーい好きでいいよはーいもっと簡単に
はーい好きでいいよはーいもっと叫べ
はーい好きでいいよはーいもっと簡単に
はーい好きでいいよはーいもっと叫べ
(アイドル自己紹介)
ねえアイドルが楽しい
いっぱい愛が舞ってる
ステージから見る景色がずっと宝物さ
ねえもし君が他界したとしても君が
必要な分の幸せはあげられていたかな
(中略)
謙虚 優しさ 絆 キラキラ輝け
がんばっていきまっしょい
―引用終わり―
「このいのちの使い方を君に愛されたい」という言い方に、過剰なまでの自己愛を、他者に愛されるという「職業」によって正当化するアイドル志願の少女の論理が凝縮されている。
そしてそのことは、現代の少女が置かれている「愛の欠乏」を見事に描写しているのだ。
高校や大学を卒業して就職するとき、求められるのは労働者としての能力であり、一定時間拘束される仕事に対して給与が支払われるだけだ。そこには「愛」が入り込む余地はない。
だが、よく考えてみると、子ども時代というのは、保護者から愛されることが、衣食住が保証される条件だった。たとえ何か悪いことをしでかしたとしても、学校に行かなくても、愛されていれば許された。
だが、職場では大きなミスをやったり、仕事に来なくなったりすれば、当然、解雇される。給料は支払われず、生きていけなくなる。そこに「愛」はない。
現代でも基本的に社会は男性中心にできている。本当にそうでなくても、男性は体力や耐久力があると思われており、肉体労働で食っていくことはできる。だが、何のスキルもない少女は、突然そういう社会に出ていくことに戸惑い、強い不安を感じる。
だが、現代日本には、少女にとって、唯一、「愛されること」で給料が貰え、成功すれば高い社会的地位=有名になれる職業がある。それがアイドルだった。


歌ったり踊ったりリアクションしたりするのがアイドルのスキルだが、本質的には「愛されること」が仕事である。歌や踊りが下手クソでも、リアクションが塩対応でも、その存在が関わることで商品に付加価値がつき、お金を払うファンがいれば、アイドルは成立するからだ。それが、「ずっとはわからないけど 幸せに似てるシャンプーの香りを見つけたの」という歌詞だ。
「歌で人の気持ち明るくできるように きっと人生にくじけてる人がいると思うから」とか、「ねえもし君が他界したとしても、君が必要な分の幸せはあげられていたかな」という歌詞は、アイドルという職業を見つけ、その仕事を誠実にやっていこうと決意したアイドル志願の少女の真情なのである。
「IDOL SONG」とは「アイドルが歌う曲」という意味ではなく、「アイドル自身の気持ちを表した歌」なのだ。ここまで喝破できるのは、大森靖子が、KOBAMETALがメタルに精通しているのと同じ熱量で、アイドルに精通しているからだ。
曲中に出てくるアイドルの自己紹介やキャッチコピーの元ネタは以下のとおり。
「えくぼは恋の落とし穴」百田夏菜子(ももいろクローバーZ)
「夢中にさせちゃうぞ」柏木由紀(AKB48)
「埼玉県からきました」小嶋陽菜(AKB48)
「フレッシュレモンになりたいの」市川美織(NMB48)
「ファンの方が恋人です」後藤郁(アイドリング!!!)
「真面目なアイドル真面目にアイドル」寺嶋由芙(BiS)
「年中無休24時間ずっと笑顔でうさちゃんピース」道重さゆみ(モーニング娘。)
「あなたの心にホールインワン」生田衣梨奈(モーニング娘。)
「あなたのハートにアクセスします」一ノ瀬みか(神宿)
「みんなのドキドキにシュートします」羽島めい(神宿)
「なんでもいいからレスください」大場はるか(drop)
「ハゲ気味のみなさーん?」道重さゆみ(モーニング娘。)
「よし、今日もかわいい」道重さゆみ(モーニング娘。)
「こゆビーム」嗣永桃子(Berryz工房)
「めちゃくちゃ話すのが苦手 可愛い自分気持ち悪い」志田愛佳(欅坂46)
「世界のルールを歌って踊って破壊する」(LADYBABY)
「燃える闘魂、燃える髪の毛」高橋みなみ(AKB48)
「見た目は純白、中身は真っ黒」宇佐美萌(ベルリン少女ハート)
「ちょっぴりおバカな小さな巨人」有安杏果(ももいろクローバーZ)
「感電少女」高城れに(ももいろクローバーZ)
「みるくとみゆきを混ぜるだけ あっという間に みるきー」渡辺美優紀(AKB48)
「ちちんぷいぷい魔法にかーかれあっかかっちゃったー」生田衣梨奈(モーニング娘。)
「トイレなんて行ったことないよ ピンクのマシュマロがでまーす」田中れいな(モーニング娘。)
「3時のおやつはマカロンが良き」西井万理那(生ハムと焼うどん)
「360度どこから見てもアイドル 出席番号ラッキー7」星名美怜(私立恵比寿中学)
「“ぼくの妹がこんなにかわいいわけがない“担当」アユニ・D(BiSH、アニメのタイトルに由来)
「ぷにっぷにー?ぴちっぴちでしょ」佐々木彩夏(ももいろクローバーZ)
「こんにちネギネギー」(Negicco)
「推せる愛せるランドセル」宇佐蔵べに(あヴぁんだんど)
「今日も明日も明後日もキラキラパワー全開」小野恵令奈(AKB48)
「がんばって生田」生田衣梨奈(モーニング娘。)
「みーんなの目線をいただき~まゆゆ」渡辺麻友(AKB48)
「泣き虫で甘えん坊なみんなの妹」玉井詩織(ももいろクローバーZ)

最後の「謙虚 優しさ 絆 キラキラ輝け」は欅坂46のライブ前の掛け声であり、「がんばっていきまっしょい」は、モーニング娘。のライブ前掛け声で、同名の映画もあるが、元々は、愛媛県立松山東高等学校ラグビー部で、1960年代前半ごろから使われている「気合入れ」の掛け声である。そして、大森靖子は愛媛県松山市出身なのである。
(つづく)